ドラクールは人の波に乗り、街の中心の広場へと到着した。

否応無しに軟禁生活を送る彼は、真っ昼間に街を出歩く経験は初めてだった。

しかし高鳴る鼓動は騒音に消され、まごつく視線は雑踏に紛れた。

誰一人として、彼の持つ闇色の髪や瞳に興味を示す人間は、居なかった。整った薄い唇から、微かに安堵の溜息が漏れる。



宮殿からは拍子抜けする程に簡単に抜け出せ、このまま何処へでも行けてしまいそうな気にさせられた。

尤も、今日は特別に警備が手薄な状態だった。侵入者には普段通り厳しいが、退出者にまで構う余裕などないのが現状だ。






━━陽が、強い。

晴れ渡る天に少し辟易しながら、無機質な断首台に視線を向ける。

其処をぐるりと取り囲む警備兵。

そして断首台の向こう。更に厳重に警護されている、数人。






国王 フェンヴェルグ・キャンベル。

国師 ルーヴィン・クロイツァー。



そして、

今にも倒れそうな程、血の気を失った顔色の

少女。









━━ああ、やはり。あの日、俺の元に迷い込んで来たのは…。









一人の侘しい風体の男が引っ張られて来ると同時に、民衆は喚声を上げた。

僅かに遅れて来たベネディクトが、罪状を読み上げる。



耳を劈く様な喧騒。
夥しい愚かな群衆。

人々の視線は一点集中、咎人に向けられていた。






ドラクールだけは群盲に反し、違う人物に終始その視線を注いでいた。



断首台の刄が下りる瞬間も、

生首が地面に転がろうとも、

辺りが血に染められ様とも、



彼は亜麻色の髪の儚い少女を、鋭い双眼で貫いた。

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