普段と何ら変わらない、平日の午後。

天気はとても穏やかで、レオンハルトは民家の屋根の上で羽を休めている小鳥の囀りに耳を傾けていた。



「お待たせ。」

下校して来たリュユージュの声にレオンハルトが振り返ると、彼は左手に包帯を巻いていた。

「ど、どうされました!?」

それを目にしたレオンハルトの顔色は一瞬にして失われた。

「実習で切っただけ。」

短くそう言うと、リュユージュは帰路に就く。レオンハルトはそれに付き従って歩いた。



通常ならばレオンハルトは屋敷までリュユージュを送ると正門の前で引き返すのだが、今日はそうではなかった。

玄関で靴を脱ぐリュユージュの後に続いて室内に入ると、レオンハルトは強く迫る。

「怪我、お見せ下さい。」

「大丈夫。そんなに深くない。」

「それでも、見せて下さい。」

以前、鬱陶しいと溢していた筈のレオンハルトの小言に不満を漏らす事も無く、何故かリュユージュはおとなしくそれに従った。

「本当に深くないんだよ。全然。」

するすると解かれて行く包帯。当てられている綿紗には、ほんのうっすらと血が滲んでいる。

「なのに…、痛いんだ。」

リュユージュは左手の拇指の付け根に負った細い傷口に視線を落としながら、小声で呟いた。

「只今、鎮痛薬をお持ち致します。」

レオンハルトは傷口に触れない様に、彼の手をそっと軽く握る。暫くそうした後で名残惜しそうにそれを解くと、柔らかい表情で告げてリュユージュの前から去って行った。












これが、彼等二人の、最後の会話となった。












レオンハルトは此の日を持って、ヴェラクルース神使軍 第二隊より除名され、彼に下された最終判決は永久国外追放だった。

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W.A


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