アリュミーナは人々の隙間を縫う様に進んだが、その距離は開くばかりだ。
焦れた彼女は警備の手薄な箇所を見付けると通行止めのメインストリートに飛び出し、遠ざかるレオンハルトに追い付こうと疾走した。
「全速力で走って…、転んだの。思いっきり。」
最早リュユージュはアリュミーナの話しを真面に聞く気がないらしく、珈琲のお代わりを注ぎに席を立った。
「その時、助けて下さった殿方がいらっしゃったんです。異国の方でした。」
仕方がないので、彼女はもう一度レオンハルトに顔を向けて話しを続けた。
「それなのに私は驚いて悲鳴を上げてしまい、思い違いをした警備兵にその殿方は連行されてしまいました。」
「だから何だ。僕に、その男を探せとでも言うつもりか?」
湯気の立つ珈琲を手にリュユージュが戻ると、アリュミーナは両手でテーブルを叩いて立ち上がり声を荒げた。
「何の罪もないのに、彼は処刑されてしまうわ!触れた相手が私だったという、ただそれだけの理由で!」
「悔やむのなら、己の愚かさを悔いるんだな。立場を弁えろと、言っただろう。」
リュユージュは冷淡に、アリュミーナを追い返した。
無言で珈琲を啜るリュユージュに、レオンハルトは声を掛ける。
「やはり、お二人は似ておられますね。」
「それは僕が馬鹿だという意味か。」
レオンハルトは静かに首を横に振る。
「見目がですよ。」
「そうか?君が言う程、似てないと思うけどね。」
「毎日あなたに接してる自分は、アリュミーナ様にお顔がそっくりだとは思いません。しかし普段お二人を見慣れない方からすると、やはりご兄妹だとその血の繋がりを感じる事でしょう。」
同じ、蜂蜜色の髪と翡翠色の瞳。そして同じ血を持つ双子の二人は、二卵性双生児とは言え最も近しい関係と言えよう。
「故に恐らく、ギルバート殿は転倒されたアリュミーナ様に手を差し伸べずにはいられなかったのでしょうね。」
手元の珈琲に落としていた視線を、リュユージュはレオンハルトに向けた。
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