「マジかよ。隊長さん、俺にこんな事したんだぜ?」

呆れた口調の男は、頭に巻いていたバンダナを取った。

解かれた赤毛は肩に触れ、彼はそれを掻き上げて見せる。



男の額には焼印があった。

キャンベル王国の代名詞である、正十字。

だが男のそれは、上下が反対だった。

「”逆十字の烙印”か。」

リュユージュは漸く全身の力を抜き、剣の柄から手を離す。

「俺の事、思い出した?」

「一介の犯罪者の顔を覚えていられる程、僕は暇人じゃないよ。」

「そうかよ。つれないねえ。」

「肉の焼ける匂いなら良く覚えているけどね。」

以前、リュユージュは刑期を終えた犯罪者にその証である”逆十字の烙印”を押す作業を担っていた事があるのだ。

「懐かしいな、焼印。とても退屈な仕事だったよ。」

「あっそ。」

男は吐き捨てる様に言うと、額にバンダナを巻き直した。

「それで、僕に何か用?復讐ならばお門違いだとは思うけど、喜んで受けて立つよ。」

再び緊迫した気配を纏ったリュユージュを、男は慌てて突き出した両手を振って制止する。

「待ってくれ!あんなのを見せられた後で隊長さんとやり合おうとするほど、俺はバカじゃねえ。忠告しに来たんだよ。」

「忠告?」

「そうだ。まさかこのまんま、山を越えるつもりじゃないだろうな。」

「そうだけど、何か問題でも?」

小首を傾げるリュユージュには、全く理由が分からない様だ。

「隊長さんが殺(ヤ)ったのは山賊の頭目だっつっただろ。あの山には手下がうようよいる。タダじゃすまないぜ。」

「うん。だから、それの何が問題なの?」






赤毛の男は、自分が如何に無駄な時間を過ごしていたかに漸く気付いた。

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