乗り継いだ列車を目的地近傍で降りた時には、既に太陽は落ちていた。

リュユージュは情報収集がてら、酒場へ入った。

「いらっしゃい。」

店内の全部の視線が一瞬だけ彼に注がれたが、とある双眼を除いては直ぐに元に戻された。

店主に案内された席に着くなり、側に居た一人の男が彼に声を掛けた。

「アンタ、見ない顔だな。どこから来たんだい?」

男は特に威圧的でも何でもなく、寧ろ好意的だった。

「王都からだよ。」

「へえ、キャンベルから?そりゃあまた遠くから来たもんだ。」

「ずっと座って列車に揺られていたから腰が痛い。」

リュユージュは上着を脱ぎながら、そう答える。

彼は、極めて質素な上着からは想像も出来ない様な丁寧に織られた絹織の衣服を身に付けていた。

途端、男の目色が変わる。

「アンタ、随分と綺麗な服を着ているんだな。都会ではみんなそうなのかい?」

相変わらずの親しみやすい口調だが、男は舐める様に上から下までリュユージュに視線を走らせていた。

だが、それに敵意は感じられず、値踏みをしている雰囲気だった。



━━この男は宿屋の仲介者か遊廓の客引きだな。僕の足元を見て金を引っ張ろうとしてるだけか。



瞬時に男の目的を見抜くと危害はないと判断し、捨て置く事にした。

「仕事は何をしているんだい?都会の話しを聞かせてくれよ。」

「都会の話しと言われても、そんなに特別な事などないよ。」

リュユージュは、無視の出来ない背後からの視線の方に意識を集中させた。

獲物を付け狙うかの様な静かで鋭い気配が執拗にまとわり付き、自分から離れないのだ。

「ところでアンタ、名前は?オレは…、」

男が名乗ろうとしたと同時に、酒場の扉が乱暴に開けられた。

「酒だ、酒!!モタモタしてんじゃねえぞ、早く持って来い!!」

周りの客は悲鳴を上げると、散らばって逃げ出した。

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