トキ春(拍手) | ナノ


「おや、今日は髪を結んでいるんだね。レディ」
「あ、神宮寺さん。そうなんです、スタジオまで歩いて来たら、暑くなってしまって」
「確かに今日は気温が高いからね。しかし、その髪型も素敵だよ。普段見えないレディのうなじなんか、すごくセクシー……」
「なっ! 何を仰るんですか! そんな、わたしなんて全然セクシーじゃないです! セクシーというなら神宮寺さんの方が……! ……? どうかしました? 神宮寺さん」
「え? あ、いや。うーん、これは、何ていうか……指摘した方がいいんだろうね、子羊ちゃんのためには」
「え? わたし何か変でしょうか?」
「いや、君はいつもと同じで相変わらず可愛いよ。けど、そうだな。1つ質問に答えてくれるかい?」
「はい、わたしにわかることでしたら何でも!」
「昨日は、イッチーと会った?」
「っ! ……は、はい……」
「やっぱりそうか」
「あ、あの、神宮寺さん。どうしてわかったんですか?」
「ん? ここ。子羊ちゃんの首筋に、誰かさんの印がついてたから」
「え? 印って……?」
「うーん、実際に見た方が早いかな。鏡持ってる?」
「はい、あります」
「それで左の首筋を見てごらん」
「はい……。あれ? 赤くなってます。虫刺されか何かでしょうか?」
「それが、イッチーの君への愛の印だよ」
「え? …………っ!!!」
「心当たり、あったみたいだね」
「いえ、あのっ! そんな!」
「安心して。そこを突っ込んで聞くほど野暮じゃないから。まあ、そういうことだから、残念だけど髪は下ろしておいた方がいいみたいだね、レディ」
「……〜っ、はい……! あの、神宮寺さん、ご指摘ありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして」

****

「イッチーって、独占欲強かったんだね」
「何の話ですか? レン」
「ん? さっきレディに会ったとき、彼女髪を結んでいてね」
「……ああ、なる程。見えたってわけですか」
「うん」
「しかし、私もたとえ首筋を出しても見えにくい所につけたつもりだったんですが。……レン、あなた春歌を見過ぎじゃないですか」
「はは、それは一理あるかもね」
「……レン……」
「冗談だよイッチー。おっかないからそのドス黒いオーラ閉まって!」
「……冗談だろうが何だろうが、春歌を色目で見たらたとえあなたでもタダじゃ置きませんよ」
「おー怖い。肝に銘じておくよ」

****

「ただいま帰りました」
「おかえりなさい、トキヤ君。あの、今日……、ひゃっ」
「レンから聞きました。しかし、この痕を見つけるなんて、レンの視線は鋭すぎるとしか言いようがありませんね」
「トキヤ君……!」
「何です? 春歌」
「もう、こっそり痕をつけるのは、……禁止です……!」
「ほお? それは何故です?」
「! だ、だって、今日みたいに誰かに気づかれたら、恥ずかしい、です……!」
「恥ずかしいんですか。私に痕をつけられるのが」
「ち、違います! トキヤ君にされることは、全然嫌じゃないですけど……誰かに、トキヤ君との思い出を知られてしまうのは、何だかちょっと……恥ずかしくて。2人だけの秘密にしておきたくて……」
「春歌……」
「トキ、ん、ふう」
「……はあ。まったく、ずるい人ですね。照れている姿すら可愛らしいだなんて」
「ト、キヤく……、ん」
「ん……。わかりました。私だってこんなに可愛らしいあなたを、他の奴に見せたくありませんから。……今度はもっと、私以外には見えない所につけますね?」
「え? それはどこですか?」
「さあ? それじゃあ早速試してみましょうか?」
「きゃっ。ト、トキヤ君、下ろしてください! お夕飯の支度が、あとちょっとなんです……!」
「後ででいいですよ。折角用意してくださっていたのに申し訳ないんですけど、今夜は春歌、あなたを先にいただきたい」
「っ! えぇ!? そんな、あの! トキヤ君……!」
「……春歌。私は、耐えられないんです。君に纏わりついたレンの視線を、早く消したくてたまらないんですよ」
「……トキヤ君……」
「大人気ないと自分でもわかっていますが、こればかりはどうしようもない。ということで、大人しくしてくれますね?」
「はい……」

(絡みつく熱はとろけるほどに甘く)

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