小話置き場 | ナノ



▽つめあわせ(黒バス)


◆黄桃
「桃っちって、甘い匂いがするね」
桃井はきょとんと首を傾げた。
「そうかな?香水はつけてないから、リンスの匂いかなぁ」
もしかしたら制汗剤かも、などと思案し始める桃井に、黄瀬は微笑んだ。匂いの元を知りたい訳ではないのだ。ただ、すれ違った瞬間に気づいたことを、そのまま口にしたまで。
「いい匂い。オレ、桃っちの匂い好きっス」
「え……」
ニカッと笑って、黄瀬はシュート練習に戻っていってしまった。
「匂いが、かぁ……」
「好き」という言葉に一瞬ドキッとしたが、それは桃井自体を差してではなかった。間違えないようにしなければ。彼にとっては匂いをほめることも、それを「好き」と表現することも、きっと特別なことではない。
「さて、集中しなきゃ」
両頬を叩いて、桃井も一軍が練習しているコートに向かった。

◆青桃
「青峰君!部活ちゃんと来なきゃダメでしょ!」
「あァ?うっせーよ、俺が何しようと俺の勝手だろ」
「も〜!チーム練習とかあるでしょう!」
「めんどくせェ。どうせ俺がシュート決めんだからそんなんわざわざやる必要ねーよ」
「……っ」
桃井は言葉を詰まらせた。何だ、やっと諦める気になったかと思った次の瞬間。
「……私が、大ちゃんのバスケしてる姿見たいの……!」
「……」
まいった。泣きそうな顔をして、そんな可愛いことを言うなんて反則だろう。青峰は観念したように息を吐いた。
「おい、泣くな。お前泣き顔ひでェんだからよ」
「誰が泣かせてると思ってるのよぅ!」
「ったく、わかったよ。部活、今日は出てやる」
「ホント!?」
途端に桃井は瞳を輝かせた。
「じゃあ大ちゃんの気が変わらないうちに早く行こう!」
「っ、おい」
切り替え早ェな。現金なやつ。
そんなことを思いながら、青峰は桃井に引っ張られる形で体育館へ歩き出した。

◆黒桃
テスト期間に入り、部活が停止となった。
放課後、黒子はテスト勉強をするために図書室を訪れた。すると自習スペースにピンクの髪の少女がいるのが目に入った。
「桃井さん」
「あ、テツ君」
「随分熱心ですね」
机上にはバスケ関連の本が山積みになっていた。
「せっかく図書室に来たんだからって、本を物色してたら思いの外熱中しちゃって」
テスト勉強はまだなの、と桃井はバツが悪そうに苦笑した。
「……ありがとうございます」
「え?」
「ボクらの勝利のために、努力してくれて。コートの外に桃井さんがいてくれることが、とてもありがたいし心強いです」
「テツ君……」
優しい笑顔。コートの中でボールを追いかける真剣な表情とはまた違う。
彼を無表情だと誰かが言っていたが、そんなことはない。彼は怒るときは怒るし、楽しいときは笑う。意識してみれば、彼が何を考えているかよくわかる。彼がバスケをどんなに好きかということも。
「……早くバスケやりたいね」
「そうですね。テストなんてなければいいのに」
「意外。テツ君でもそんなこと思うんだ」
「思いますよ。まあ、思ったところでテストはなくなったりしませんから、あまり口にはしないですけど」
「今言ったばっかじゃない?」
「それは……つい口が滑りました」
「ふふ。テツ君おもしろい」
早くバスケがしたい。けれども、たまにはこんな時間も悪くないかもしれない。

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