▽才蔵としの(てるてる×少年) 彼女は気高く美しく、そして。 「しのぶ様、腕を出してください」 「……」 「染みますよ」 「っ!!才蔵、もっと優しくおやりなさいよ!」 「無理ですよ。大体痛いのがお嫌なら、最初からお怪我などされないようにしてください」 「…お前、怒ってるわね」 「ええ、怒っております」 「!」 にこりと笑顔でしのぶ様を見る。まさか肯定が返ってくるとは思わなかったのだろう。ご自分で言ったくせに、しのぶ様はびっくりしていた。 「なぜ、女子生徒と取っ組み合いの喧嘩などされたのですか」 「つまらないことよ。彼女の好きだった男がしののことを好きで、その男をしのがふってなぜかその男を好きだった女がしのにつっかかってきたの。『あの人のことを真剣に見て、考えて』とね。しのの目に留まることのない男なんて興味ないわと言ったら頬を打とうとしてきたから、応戦したまでのことよ」 「しのぶ様……」 しのぶ様に好意を寄せていた男がいた、それを聞いただけで頭に血が上りかけた。なんて心が狭いのだろう。自分で自分を情けなく思いながら、消毒したしのぶ様の手をそっと握る。 「もう少し言い方があったのでは…」 「なによ。お前、いつから主人に意見を言えるようになったの?」 「申し訳ありません。ですが…」 「ですが?なに?続きを許すわ」 「はい…。ですが、しのぶ様が誤解されてしまうのは、才蔵は悲しいです」 「誤解?」 「しのぶ様は、本当はとてもお優しい方ですから」 「…っ!」 しのぶ様は真っ赤になった。照れた顔もお美しいと見とれていると、ふいと顔を逸らされてしまう。 「しのは、優しくなんかないわ」 ふてくされたように言うその声も愛らしい。 「そんなことありません。僕はしのぶ様以上にお優しい人を見たことがありません」 「…しのが優しいと言うのなら…それは、才蔵。お前にだけよ」 「………っ」 伏し目がちに僕を見ながら言われた言葉に、鳥肌が立った。握る手が熱い。どうしよう。どうしようもなく愛しい。この方が。 「…それは、もったいないお言葉です」 どうにか冷静に努めて返事をした。浮かれてはいけない。しのぶ様は僕の主で、僕はただの忍だ。いずれは里のご当主となられるお方ならば、これから然るべき婿殿も現れるだろう。僕がしのぶ様の隣に並ぶ日は来ない。ただ許されるならばずっとお傍で見守っていたい。それがあなたの隣でなくてもいいから。 数秒見つめ合っていた。そして次の瞬間、僕はしのぶ様に両頬をばちんと挟まれた。 「!?し、しのぶひゃま!?」 「わたし、お前のその顔が嫌いよ」 「そっ、それは申し訳ありまひぇん…」 「我慢して飲み込んで、全部を諦めてしまうような顔。才蔵らしくないわ」 「……しのぶ様……」 挟まれていた手は次に僕の頬を包み込んだ。 「才蔵。お前はわたしのものよ」 「はい……」 「そしてしのは才蔵のもの」 「っ!そ、そんなことありません!しのぶ様は御城の里の姫様で、僕は一介の忍で…!」 「いいの」 慌てふためく僕の言葉を遮って、しのぶ様は言った。よく通る美しい声。僕の大好きな声だ。 「ですが……」 「お前なら、いいのよ」 そう言って、しのぶ様はふわりと微笑んだ。 「っ!」 「御城や里なんて関係ないわ。あるのはただのしのとただの才蔵、2人に関してだけ。そうでしょう?」 「……」 ここで頷いてしまったら負けだ。僕は御城から命を受けてしのぶ様をお守りしている。命があるからお傍にいられるんだ。 ああ、だけど。 「……はい」 僕がしのぶ様に勝てるはずがなかった。 本当は、命令などなくとも、僕はしのぶ様をお守りしただろう。この方をお守りするのは、僕の役目だから。 幼い頃に交わした約束。それはいつしか僕の生きる意味となってしまっていた。 「いい子ね、才蔵」 しのぶ様は不敵に笑った。もう降参だ。その顔に、僕は滅法弱いんです。 「しのぶ様。僕の全てをあなたに差し上げます」 「ええ、もらってあげるわ」 しのぶ様。あなたにならば、この命を捧げます。 僕はあなたの忍。あなたのために存在し、あなたのためだけに生きましょう。 気高く美しく、そして優しいあなたのお傍に。 ──── 久々に原作読み返してたまらなくなりました。才しの万歳。 てるてる少年はキャラがみんな魅力的でみんな好きです。左助と千代も幸せになってほしい。 |