小説 | ナノ



30分もかかってしまったが名前は待っていてくれた。


足の遅い名前に合わせるのはもう俺の癖になってしまっている。

家の近くになったとき名前が小さく呟いた。

『もう…』


嫌な予感が胸をよぎる。

「名前?」


『我慢しなくていいよ…』

「どうした」

『わかってるの。蓮二が櫻井さんを好きだってこと。ずっとそばにいたから…』


違う!!

「俺は…」


俺は名前が好きなんだ。

名前しかいない。


『だからいいよ。そばにいなくても。蓮二が好きな人と幸せになってくれたらいいから。無理しないで』

あんな女…名前の一部にもならない。

涙を我慢するようにくしゃくしゃな顔で無理に笑う。

『バイバイれんくん…』


…。

あぁ、がらにもなく泣きそうだ。

久しぶりにれんくんと聞いた。


これは名前が相手とちょっと距離を置いた時に使う。

男の中では俺だけが名前呼びだったのに…。

名前は俺から逃げるように名前にしたら早いペースで歩いていった。


追い掛けたくてもショックが大きすぎて追うことが出来ない。


どうして…。

名前、俺はお前だけを。



嫌だ…。



離れていかないでくれ。
名前が傷つくのはもう見たくない。
守ると誓ったのに。
俺は…ふがいない。
伸ばした手が空を切った…。