いつかこんな日が来るんじゃないかってずっと思ってた。だけどそれを見ないフリをして、そっと心の奥へとしまい込んでいた。そうすれば、何も知らない、気付かないままの自分で居られた気がしたから。
 ずっと一緒に居られるような錯覚を覚えたのは、彼と過ごす日々が大切だと感じるようになってからだった。強く優しい笑顔を見る度に、どうしようもなく心が安らいでしあわせな気持ちになる。そんな幸福を感じる資格などないはずなのに。
 それでも、彼の隣で毎日を過ごす度に着に自分との違いを知らしめられるのだ。彼は明日を歩んでいくのに、私は過去に捕らわれたまま。私がとうの昔に無くしてしまった未来を彼は持っている。大人へと成長していく彼を見て、残酷な現実を思い知るのだ。人間と異質な存在である自分との隔たりを。
 数え切れない“もしも”の世界は幾ら想像しても尽きない。その“もしも”はいつだって優しい夢を見せてくれる代わりに、淡い期待を殺していく。それが自分が負わざるおえなかった運命への罰なのだと、ひたすらに言い聞かせた。だけれど、そんな甘美な罰があると知りながらも、どうしても優しい世界へと想いを馳せてしまう。 ねぇ。もしも、未来へと向かう大きな手をこのまま掴んでたらどうなるのかな。そんな資格も、立場もないくせにね。だけど、今の私にとっての優しい世界の象徴であるあなたはたくさんの“もしも”を想像させるんだよ。
 そんな顔させちゃってごめんね。でも私にだけ向けられているんだって思うと、ちょっとだけ嬉しくも思ってしまうの。ね、悪い子でしょう。
 たくさんの優しさをありがとう。あなたの側にいられて、例え泡沫の時間だったとしてもしあわせだったよ。私には得ることが許されない愛情も、ありがとう。これだけの優しさと愛情があれば、もう大丈夫だから。
 今まで、小さな我が儘に付き合わせてごめんね。あなたはあなただけの未来を進んで。
 だから、もう手は離すね。

でも、また振り返ってくれるんじゃないかって思っちゃうんだよ。







 いつかこんな日が来るんじゃないかって思っていた。ただそれを忙しさにかまけて、気付いていないフリをしていたんだ。
 彼女の隣に居るときは、何者でもない本当の自分自信の姿で居られた気がした。それは彼女が地位や名誉に捕らわれず、純粋な瞳で僕を見てくれていたからだ。そんな彼女の優しさに一体何度救われたのだろう。彼女には感謝しきれないほどの大切なものをたくさん貰った。
 ずっと側に居たい、あの微笑みを浮かべて欲しい、彼女を全ての事柄から護りたい。共に過ごしていく時間が増えていく度に、自分の背格好が“大人”へと近付いていく度に。そんな気持ちが大きくなっていったんだ。
 どうして、君をずっと護っていく資格が僕にはないんだろうか。自分には護っていかねばならないものが沢山ある。村、祓い手、家柄。その全てを護る為には、僕は彼女を手放さなければならないのだ。
 なんて惨いことを彼女にしているのだろうと思うときがある。いつか離れるときがくると分かっているのに、彼女の優しさに縋りついているのだから。そうして彼女の純粋さと優しさに甘えて、どんどんと非生産的な関係を深めていくのだ。その関係がいつか己の首を絞めると知りながらも。

 ねぇ。もしも、離れていく君の手を掴んだら、どうなったのかな。だけど、僕の知らない場所を見据えている瞳を閉じ込めてしまいたいだなんて、馬鹿げたことを思ってしまうんだ。そんな風に思うようになったのは、君の優しさと純粋さのせいだよ。そんな彼女を手離したくなんて、なかった。
 僕と過ごした日々は、君にとって幸せなものだったのかな。もしそうであったならば、僕はすごく嬉しい。君が一人で歩き出したときに、思い出す寄りどころがこの記憶たちであって欲しいだなんて、浅ましいことを願ってしまうんだ。ねえ、醜いだろう。
 たくさんの愛しさをありがとう。君のおかげで愛することの強さを得ることが出来たよ。だからこの滑稽な悲しみと切なさは僕だけが抱えてくね。だから、君はずっとその場所で何者にも捕らわれず、微笑んでいて。
 今まで、大きなエゴに付き合わせてごめんね。だけど、この焼け付くような想いさえあればちゃんと前を向けるから。
 だから、もう前に進むね。

でも、まだ側にいて欲しいと思ってしまうんだ。










(ずっと、一緒に居られたのかな。)





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素敵タイトルは花畑心中さま
文中でのタイトルも花畑心中さま。もしも〜のタイトルはずっと使用したかったタイトルでした。
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