▼終夜×撫子



壊れた世界に彼はいた。
広い場所の真ん中にいつもいつも彼はいたのだった。夢の中の世界で、夢に見る壊れた世界で、彼は本を片手に私を待っていてくれる。見たことがあるような場所は、けれどつまりは夢の世界だからだと思ってしまえばそれまで。夢だから知らない場所でも、夢だから知っているような気がするのだろうか。

「こんばんは」

夢だから、と、私は自覚しているのに私は夢の世界を自由に漂うことしか出来ない。見られないようにしたくても、誰かは私に気づいてしまう。

「撫子」
「こんばんは、今日も一人なのね」
「一人ではないぞ。撫子がおるだろう」
「私がいなければ一人じゃないの」
「ふむ。けれど私が一人でいなければ、会ってはくれないのではないか?」

至極当然のような顔で、彼は言った。
そんなことないわ、と私は答えようとして、でもそうかもしれないと思い直す。もしも夢で会う彼が彼以外の他の人といたら、私は彼にどう声をかけるのかしらと。夢なのに、夢の世界だというのに私はその場を、まるで現実の世界のように考えてしまう。
壊れた世界は、どこにも現実的な要素などないのに。

夢で会う彼は、どこか現実世界の知り合いを彷彿される物言いではあるのだけど。それはきっと此処が夢だから。

「なんて、声を掛けるか迷いそうだもの」
「好きにして構わぬさ」
「あなたは、まぁ、気ままに答えそうね」

「何を言う。私は私で考えて動いているぞ。私は―――」



+++



夢を見ていた。
それは自覚のある夢だった。知らないけれど知っている人が、壊れた世界で私を待っているそんな夢だった。崩れた廃墟、壊れた大時計、暗い空、明るさが何処にもない歪んだ世界。
私が知らない夢の世界に。
けれどあの人はあの世界で私を待っていてくれた。誰かも知らないのに、話せば答えてくれる不思議な人。夢の世界の住人にそんなことを思う私は、そんな風に捉えられる私はどうやらそんな所は小学生らしいのかもしれなくて。けれど、

「居眠りかそなた」

ん?
何処かで聞き覚えのある声が聞こえてくる。夢の世界の、あの壊れた世界にいた彼の声に似ているような気がした。

「これはあれか、今なら眠るそなたと会話ができるのやもしれぬな。ふむ、試す価値は存分にあろう」

似ている、わけがない。
だってあれは夢の中の話。夢に出てきた人が、彼だと思っても思い込んでも、それは夢だからそう思っているのかもしれないのだから。
だから、今聞こえている声は、

「良し、とりあえず甘いものを囁いてみると夢に現れるらしい。試してみねば」
「……、」
「あんみつ、」
「…、終夜。わたし起きてるから」
「なんと。いつの間に。は、そなた居眠りではなく狸寝入りをしていたのだな」

独特な言い回しとマイペースな終夜に違いなかった。
夢の世界の彼も、そういえばこんな風に話していたのはきっと終夜が何か言っていたからに違いないわ。

「ところで、あんみつって何?お腹空いたの?」
「何を言う。私は私で考えて動いているぞ。私は、撫子と一緒に食べれたら良いのではないかと考えたのだから」
「一緒、に?」
「さよう。一人で食するよりも皆で食した方が同じものでも美味しさが変わるのだそうだ、先生が言っておった」
「、あー、試したいのね」
「うむ」

頷く姿は大人っぽく映るのに、会話が子供そのものな終夜に私は呆れたように笑って同意してみせた。のは、つまり私も存外子供らしいのかもしれない。

「それもいいわね。たまには」



あどけないきみの言葉はいつも不完全だから、足りないものをふたりで探すんだ
(良し、左様ならば腕によりをかけて)
(どうして自分で作ろうと思うのかしら。待ちなさい終夜)
(蜂蜜と餡蜜は同じか?)
(違うわよ)



title by hmr

(by季夜。)





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