※食満×くのたま




「さ、寒い…」
「うへあ!?」

外に置いた桶の水が凍るほど寒い日、俺の部屋へやってきたあいつは俺の首に冷えた手を押しあてた。突然のことに驚かないはずがないが、自分でも気持ち悪い声を出してしまって少々恥ずかしい…。
その気持ちを誤魔化すように顔を怒りの表情へと変えて勢いよく振り向いた。本気で怒ってはいないしむしろ恋仲みたいでちょっと嬉しいなんて気持ちは仕舞い込め俺!

「いっ、いきなり何すんだ!鳥肌立ったじゃねえか!」
「別にいいじゃん。食満はずっと部屋に籠もってシコシコしてたんだしさー…」
「してねえよ!委員会の仕事やってんだよ!」
「うぁーはなしぇー」

見りゃ分かんだろ!と言いながら奴の頬を左右に引っ張ってやれば伸びる伸びる。離せなんて言われても離すもんか。…それにしても驚異のもち肌だな、どんだけ伸びるんだこれ。まるで年端もいかぬ少女のようだ…いや何でもない。それに冷たすぎだろ。本当に寒いんだな、外。
(流石に可哀想になったから)手を離し、頬を優しく包み込んでやれば先程までの抗議の声がぴたりと止んだ。

「なあ、今まで何やってたんだ?」
「あー…うん、」
「うん、なんだよ」
「…え、言わなきゃ駄目?」

ここにきて往生際の悪い奴だ。

「そんなにほっぺた引っ張られたいのか、そーかそーか」
「…これ、食満と食べようと思って町まで行ってた」

もう一度頬を伸ばされるのは嫌らしい。渋りながらも袷に手を突っ込み、馴染みの茶屋の包みを取り出す。どうでもいいが女子なんだからもっとお淑やかにだな…そんな大胆に手を突っ込むなんてだな…!

「…………」
「食満?」
「……………」

だがシコシコなんて下品なことを言う女だ、それくらい当たり前か…こいつにお前をオカズにしてるって言ったらどうなるんだろう……。…いやいや、今はこいつがお淑やかにするべきという議題が脳内食満会議が行われてるんだからそういう内容で悩むべきだろ!俺はお淑やかな女子が好きで、

「もしかしてお団子食べたくなかった?」
「! 食う!食うぞ」

しかし自然な所作によって袷から覗いた肌色というのもなかなか扇状的で俺的にはよろしい…などと阿呆なことを考えていたらこいつから掛かる声。いかんいかん、煩悩に支配されちまったぜこの食満留三郎様が…。

「じゃ、じゃあ食うかー」
「うん。あんまり数ないから味わってよねー」
「ははっ、だな」

そうしていざ食わん!とした時だった。

「食満せんぱーい、七松先輩が破壊したところを直してくれって色んな人から言われましたー」
「ましたー」

「お、おう、そうか…」

よく知る声、用具委員会の後輩しんべヱと喜三太にそれは遮られた。普段なら嬉しい後輩の訪問も今は少し恨めしいぞ…。

「俺行ってくんわ」

心中では小平太貴様!と喚き散らしていたが顔にはおくびも出さず立ち上がる。俺爽やか。
颯爽とこの場をあとにしよう…そう思い俺を待つしんべヱと喜三太の元に向かう俺の背中に、あいつからの優しい声が投げ掛けられた。



「食満、終わるまで居座っててやるんだからね?」



今まで見たこともないような速さで仕事を終わらせた。
(もうプチ不運なんて言わせないぜ!)














―――――
すごく長い間拍手にいてくれました。お疲れ様だぜ…。



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