「どうしたんですか?」
こちらに背中を向けて辺り一面に広がる紙を集めている人に声を掛けた。彼女は肩をびくりと震わせ、体を僕の方へと向けた。
「あ、えっと…」
「今拾ってるのって小松田さんがブチ撒けたやつですか?」
本当は聞くまでもないけど、会話のきっかけになれば…と思い口を動かす。
僕の質問に答えにくいのか、ややあって苦笑いを浮かべ彼女は言った。
「…そう、です」
やっぱりね。
きっと何年たっても、後輩事務員ができても、小松田さんが小松田さんであることは変わらないんだろうな。いっこうに進歩がないもの。
「大変ですね?手伝いますよ」
「え…えっ?い、いいです、よ。これが私の仕事でもあるので…」
「小松田さんの尻拭いだけが仕事って訳じゃないでしょう?人の厚意は受け取った方がいいですよ」
「でも……」
「異論は全て却下しまーす」
「う、うー…じゃあ、お願いします…」
渋々了承…といった彼女とは裏腹に、僕は心の中でガッツポーズをとる。一緒にいられる時間が増えるのはいいことだ、うん。僕にとってのいいことだけど。
「あ、僕兵太夫っていいます。笹山兵太夫。貴方は?」
「私は苗字名前っていい、ます」
よっしゃ自然な流れで自己紹介!心中で二度目のガッツポーズをとる。本当は名前なんてずっと前から知ってたけど、本人の口から聞くとまた一味違う。幸せすぎる。
「苗字さんは集め終わったら何をするんですか?」
「裏庭と門周辺の掃除です。…笹山君、は、からくりを作るんですか?」
「僕がからくりを作るって、知ってるんですか!?」
「は、はい。三治郎君によく聞くので…」
思わず語気が強くなってしまう。…が、それにしても三治郎よくやった!以前、何かあったら僕のことを話しておくって言ってたけど、実行してくれてたとは。今度団子でも奢ろう。
名前も呼んでもらったし、今日は本当にいい日だ。
「苗字さんは三治郎と仲がいいんですね」
「い、いえ、そんな…。三治郎君にはよく相談に乗ったりしてもらうだけで…」
「…ちょっと妬けちゃうなあ」
「えっ!?」
「…え?」
僕が軽い調子で出した言葉に顔を赤く染める苗字さん。可愛い。じゃなくて、え?これは期待してもいいってこと…?
「…苗字さん」
「は、い…」
「今度町に行きませんか?美味しい団子屋知ってるんです」
「は、はは、はい、行きます!」
是非行きます!と、頬の朱色はそのままに僕の誘いに乗ってくれる苗字さんが愛しい。
ねえ、
貴方は知らないだろうけど、僕はずっと見てたんですよ
(いつか兵太夫って呼ばせてみせる)
―――――
三治郎は生物が逃げた時に事務員さんにお世話になって、そこから仲良く。
兵太夫は三治郎と話してるのを偶然発見して一目惚れ。
ヒロインは三治郎と話してる兵太夫に一目惚れ。
ってなんだこれw
090725