運命と確率




一生で運命の人と出会う確率は、0.0000034パーセントらしい。
因みに、意中の相手と両想いになる確率は0.0025パーセントだそうだ。

適当に回したテレビ番組の特集で見たのか、今まで読んだ大量の雑誌の中のひとつの記事であったのか、記憶は定かでないが。

そもそも、運命の人だとか両想いになれる確率だとかでギャーギャー騒ぐのなんてクラスの女子くらいのもんだろう。
放課後の教室という絶好のロケーションで恋話に花を咲かせ、ロマンティックなシチュエーションに想いを馳せるのは結構だが、下品な笑い声と耳をつんざくような悲痛な悲鳴をあげることはやめて貰いたい。
叫び声だけでもどうにかならないものか、そんなことを心中呟きながら何気なく窓の外を覗くと、見知った顔が下に広がる広場のベンチに座っているのが目に入る。

櫻井春樹。
板津高等学園2年D組。好物は甘い物としょっぱい物、苦手な物は酸っぱい物と辛い物と苦い物。選挙管理委員会委員長、サッカー部副部長。極度の女嫌い。
そして兄、冬野雪の「恋人」

ベンチに座って脚をぶらつかせている彼は、兄が最も執着する、まさしくその人であった。

そういえば、兄が何かに執着するのを見るのはこれで三度目だと赤く沈みゆく夕陽にぼんやり頬杖をつく。
一度目、絵。
二度目、秋吉若。
三度目、櫻井春樹。
当時、兄が意中の人「櫻井春樹」とやらにどうやら本気で執着しているらしいと知った時には、微かな羨望に胸をじりと焼かれたものだ。
それ程、冬野雪という人間は運命などという言葉には縁遠い、物事にあまり執着出来ない人間だった。
それが今や0.0000034パーセントの確率で掴んだ紐を小指に括り付けているのだから、芸能人が「恋をしない人間はいない」などと抜かすのにも納得がいく。

「恋をしない人間はいない」
それは自分も例外でなく、自分は確かに恋をしていた。
世間が認めるような純粋な恋心ではない。あまりに歪んだ恋心であった。
自分は、冬野雪と櫻井春樹に、恋をしていた。
二人が交わす目も眩むような愛に、恋をしていた。
そんな話を若さんにしたら、困ったように「それは恋ではないよ」と否定されたけれど、行き過ぎた憧れは恋にさえ成り得る、そう思う。

意中の人と両想いになれる確率は0.0025パーセント、それなら自分の恋が実る可能性は――…。

計算はあまり好きではないが、片手で数えるくらいならと指を折ってゆく。
指に零れ落ちた滴は果たして、憧れなのか、嫉妬なのか。


かくして15年と数か月分の恋心は儚くも崩れ去り、夕陽の柔らかな光は地平線にぷつりとなりを潜めた。
叶うことのない恋は切なく、寂しく、美しく。



恋に恋をするのはいけないことか、いつの間にか静寂の訪れた教室で一人佇み涙を流す少年は、あまりに脆く
あまりに哀れで
それはそれは、美しかった。



( 執筆者:- )
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