「二口くん!にろくん!堅治くん!二口堅治くん!」
「あーうるせーうるせー」
「おはよう!!」
「おうおはようさん!クソが!」
「なんで!痛い!でも嬉しい!」

筆舌に尽くしがたいぐらい凄い、とにかく凄い笑顔の二口くんにスパァンと頭を叩かれる。現役男子高校生バレー部員おそろしい、痛い。髪ボサボサになったしクソとか言われたし叩かれたところは痛いけどそんなことどうでもいいんだ。二口くんに声を掛けられるなら、いやいっそその姿を見られるなら、もうクソでもMでも変態でもなんでも大声で罵ってもらうだけそっちの負けだ。私は傷つかない。やーい労力の無駄使い。
二口くん、若いうちの朝からそんなに顔しかめたら眉間のシワ取れなくなるよ。あとそのバカにしたような笑い方は昔からしてるからもうそれしかできなくなっちゃったのかな?眉間のシワひどくてもバカにしたような笑い方しかできなくてもクソ生意気でも大好きだけどね!

「嬉しいってなんだよマジ引くわー」
「えへへ嬉しいのは仕方ない」
「きもい」
「ん?かわいい?知ってる!」
「言ってねーよ」
「引いてる?なう?」
「結構ガチで」
「嬉しい!そんなに眼中に入れてくれてるんだ!」
「自分のこと卑下しすぎじゃね」
「エッ私クソ以上の存在だってこと!?昇天できそう」
「死ねよ」
「ありがたきお言葉!!」

なんだかんだ言いながら朝からこんな会話に付き合ってくれるんだから二口くんマジ優しい。これが見下すような若干引いたようなトーンと表情なのがまた、声の掛け甲斐があるってもんさ。
伊達工は男子の割合が多いから、少ない女子生徒の意識のほとんどはバレー部に流れる。その中でも二口くんは人気だ。それでなんで喜んでるのかって?二口くんはファンの女の子たちにはやたらニコニコするもんだから「キャーカッコイイ!」とか「二口くんカワイイ〜!」とか言われてるのに、私と会話するときだけ見せる、このなんとも言えない居た堪れない表情……をさせてるのは私なんだけど反省も後悔もしたことはない!えへ。
だって本当に嬉しいものは嬉しいのだ。ファンの子たちに振りまく愛想笑いも嘘くさくて好きだけど、二口堅治という人間味あふれる表情を私に見せてくれることが。私をその他大勢の一人扱いしてないってことでしょ?そこんとこどうなの二口くんよ?お得意の自己解釈も、こればっかりはあながち間違いでもないと思う。

いや、これは断じて、自分が好かれてるって自惚れではない。嫌われてんのかな!だよね!と時々思うくらいだ(もちろん気にしてない)けど、その他大勢のどーでもいい枠に入るよかマシだってんだ。欲を言えば好き枠に入りたいけどそれは高望みってやつ。もし二口くんに彼女ができたら、その彼女ごと大好きになっちゃいそうでちょっとコワイ。心配しなくても彼女とったりはしないよ二口くん。
そりゃあ自分が彼女なんて天上のポジションに居られるなら1日に1人の割合で春駒旭が死ぬけど、こんな風に話すのもすごく好きだし、どーでもいい枠ではないにせよ確実なんかじゃない今の立ち位置が居心地よくて、彼女になりたい、とはちょっと違うんだよなあ。そのくせ二口くんに彼女ができたら……できたら?私は間違いなく、限りなくどーでもいい寄りになってしまうな。それはカナシイ。あれえ、私彼女になりたいのかなりたくないのか。
ただ二口くんが大好きってだけじゃダメなのか。ダメなのかな。彼女ってポジションからしたら、私みたいなの、一番邪魔だよね。

「…何してんの?教室行かねえの」
「まさかのお誘い!?」
「ちげーから。そこで変な顔して立ち止まられると俺がそうさせたみたいじゃん」
「事実だよ!知らしめたっていいじゃない!」
「ふざけんな変な顔してるくせに」
「えっ普段はかわいいって?…二口くんのデレ頂いちゃった…」
「ガチトーンかよ」
「私今日あたり死ぬかも」
「死ねよ」
「二口被告、女子高生の尊い命をどう償うつもりですか」
「被害者と俺は無関係でーす」
「言いおった!そんなことないくせに」
「きもい」
「何とでも言えやい」

私は二口くんのこと好きになるくらいだからかなり単純で、こんなことで喜ぶくらいだからかなり頭が弱いんだろうな。二口くんそういう子嫌い?私はねえ、そんなに嫌いじゃないな。二口くんに彼女ができたらショックだろうけど、声を掛けられるだけでも、姿を見られるだけでも、私はこんなに幸せな気持ちになれるんだから。たとえその隣に女の子がいたってね。こんなに安上がりになっちゃったの、二口くんだからだ。すべてにおいて、私のオンオフは二口くんだ。なんてこった。
私二口くんにガチで死ねって言われたら死ねるかもしれないけど、魂は残るな。間違いなく。幽霊になるね。そうなると、ううん、ストーカーしてもバレないかな。気づかれそう。やっぱりなんでもない。

「二口くんが殺してくれたら私なんの未練もなく成仏できる!」
「うわ…」
「イケメンが形無しの顔」
「溶接してやろうか」
「二口くんと?喜んで」
「きっしょ」
「生殺しィ」
「うははブッサイク」

その笑い方やめろ。心の底からバカにされてる感。嬉しいけど当たってるからむかつく!きい。
おや、二口くん、あくびデカいな。今日は朝練がなさそうだから、昨日夜更かししたんだろうか。おっ青根くん。二口くんにしたのと同じくらいの声で挨拶すると、ぶんっ、と首を縦に振ってくれた。おお、風が起こった。カワイイ。大動物みたい。オハヨー青根お前今日日直だろー先行けよ、ぶんっ、二人のこんな会話(?)は見るたび和む。癒しだ。

「類は友を呼ぶ」
「は?」
「かわいいねえ」
「青根のこと?…だとしたらなんでお前は呼ばれたんだ」
「!?友だと思ってくれてるの!?」
「いちいちうるせーな撤回してやる」
「友……友……いい響き……」
「つーかお前俺がかわいいってか。死ねよ」
「死因は二口くんがかわいすぎてってことにしとこう」
「ヤメロ」

死因ね。そのうちほんとに二口くんのせいで死んじゃいそうだあっはっは。笑えない。
友、友達か。正直言ってすごい嬉しい。その程度で喜べる私は世界で一番の幸せものだ。
あ、そうだ。そうか。そうじゃん。彼女になりたい云々じゃないじゃん。そうか。あっなんでもっと早く気づかなかったんだろ。

「ねえ二口くん」
「あー?」
「私、二口くんが生きてるだけで幸せだ!」
「ウワおっも!」
「すごいでしょ!?」
「すげーおそろしーわ神かよ」
「守護神?」
「いらねえな。弱そう」
「ご名答!」
「マジでいらねえわ」

まあそういうわけだよ二口くん。
恋人って位置にいられなくても、君が嬉しいことも悔しいことも悲しいことも、何個かでいいから、共有したいなあ。バレーの表彰とか、大会で勝ち進んだとか敗退しちゃったとか、そう遠くない未来の結婚式とかさ、カケラでいいからおこぼれちょうだい。
肝心のこと言わずにそんなことばっかりさせてもらうのはずるいかな。仕方ないよ。割り切って。恋する女の子はこわいもんだよ。
やっぱり、言えない、言えないな。
軽い気持ちで言っていいことじゃないんだ、少なくとも、私の中では、

「二口くん愛してる!」
「それこそいらねー!」

(好き、だいすき、二口くん)

ぜんぶ、至って真剣、なので。



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