バレーとかバスケとかって身長によるハンデが大きいスポーツだと思う。別に低身長の人には向いてないとかじゃなくて、身長が低くても凄い人もいっぱいいるけど、あって困るものじゃないんだろうな、そりゃああるほうが有利なんだろうなって、バレー部を見て、思っただけ。
バレー部は、やっぱり身長が高い人ばっかりだ。特にあの黒髪の、触ったら痛そうな髪の先輩は、そのせいもあって、実際の身長よりも高く見える。寝癖先輩(と心の中で呼んでいる)は目つきが悪くてちょっと怖い。それにしてもバレー部は運動部のわりに頭髪が自由だなあと、窓から見ながら思う。私の視力がかなりいいことに加えてあの奇抜な髪型の集団、しかもその中に、坊主ばっかりの野球部に混じったら多分一番目立つであろう髪型をした同級生バレー部員がいるとなれば、やっぱり見てしまう。何を隠そう私はプリン頭の彼に恋をしているのだ。JKだもの。関係ないか。

親しいわけでもないし、直径2メートル以内に入った覚えもない(席も近くになったことない)し、向こうはこっちのこと知らないと思うし、私の完全なる片想いなんだけど。相手は私を知らないとか遠くから見てるだけで充分とか、これぞ!と言うべき一方通行の片想い。そもそも私が孤爪くんにときめくようになったキッカケはなんだったっけ?いつからだったっけ?ううむ、まあ恋ってそんなもんよね。初恋の時の衝撃は未だに覚えてる。初めて恋に落ちた時、何かの魔法にかけられたみたいだと思った。実際キューピッドの矢がぐっさりいってるのかもしれないと思った。しばらくしたら矢は風化したのか自然に抜け落ちたかしたけど、あの時は本当にびっくりした。

(…あ、孤爪くんくしゃみした?うわああアイフォン落ちっ……、…おお、寝癖先輩ナイスキャッチ)

彼は結構な頻度でアイフォンかPSPをいじっている。その手がトスを上げたりレシーブをしたりするところも、何度か見たことがある。あんな顔もするんだと思った。
孤爪くんはティッシュを差し出されている。くしゃみひとつで山本くんたちも大騒ぎだ。愛されてるんだなあ。他の部員より頭一つ分低い孤爪くんは、構いたがりの親戚に囲まれてる子みたいだ。その孤爪くんより背が低い先輩もいるけどそれは、まあ。

ぎゃあぎゃあ言いながら、バレー部の集団は死角に入って見えなくなった。ちなみに私のこれはストーカー行為とかでは無い。断じて、それは無い。たまたま見えたからなんとなく見ていただけだ。証拠に私は補修のプリントを解いている!くそ、数学わかんない。友人の「頑張れ〜(笑)」というバカにしきった応援と言う名のサヨウナラは手を振って跳ね返した。受け取っておいてもやる気は出ないしわからないものはわからないから、跳ね返しておいて正解だった。一発殴ってやろうかと負の感情は生まれたけど。
でも孤爪くんのおかげで元気は出た。孤爪くんが与えてくれるのは、なんていうか、エネルギーと言うと強すぎるし、パワーもベクトルが違う気がするし、オーラとかのほうが近いかもしれない。それってすごい。近づきがたいのに、ちょっとしたことで、こうして一女子生徒の元気も湧かせている。
元気が出たところで式と論証が解けるわけでもないけど、立ち向かう気くらいは持ち直したってもんよ。
そして暗号としか思えない数式にぶち当たり、それを前にうんうん唸って、30分。いや、もうダメだこれ。なまじその問題まではなんとか解けた分、やる気と自信のパロメーターがぐんぐん下降した。そしてチラッと教卓に目をやると、『プリント持ってくるついでにこれも持ってきてくれー』と言われた今日の授業ノートの山も目に入って、もうMPもHPもマイナス。ダメだこれ。
おとなしく先生に聞きに行こうと思って席を立つと同時に、ガラガラッと音を立てて教室の扉が開いた。誰か忘れ物でも取りに来たかな。目の端に映ったのはまるでプリンみたいな色で、え、プリン?

「こ、孤爪、くん」
「え、あ、うん」
「あ、わ、忘れ物かなんか?」
「あの、まあ、そんなとこ…」
「そ、そっか」

扉から遠い私の席と扉近くでの会話。は、初めて会話した!かもしれない!
私たち二人ともどもりすぎだろう。コミュ障がふたり。ウワア。
部活着と思われるラフなTシャツの孤爪くんは机の中をガサゴソあさって、何かプリントを取り出した。あれか、忘れ物って。もしかして今日出た課題かな。
とにかく自然を装って(無理だけど)、ノートの山をよいしょ、うっ重い。

「じゃ、あの、部活がんばってね」
「あっ、ま、って」
「ヘアッわ私です?」
「それ、重く、ない?」
「エッあっ大丈夫だよ、ウン、多分」
「職員室?」
「あ、うん」
「じゃあ、手伝う。どうせ体育館行くし」
「イヤッそんな恐れ多いこと!」

どんなに大丈夫だからと言っても、孤爪くんはひょいと6割ほどノートを抱えてしまった。私の周り直径2メートルの結界をいともたやすく破って。
4割のノートの山、というか、丘レベルになったそれはずいぶん軽い。

「ゴメンナサイ結局持たせちゃって…」
「おれがやるって言ったんだし、いいよ」
「ありがとう、助かる…」

こういう時、図太くてよかったなあと思う。もうドキドキとかではなく、ごめんね孤爪くん持たせちゃってスミマセンって感じだ。いや、ときめいてはいるけど、私の恋愛観はおかしいとよく言われるから、そのせいかも。
まあ確かに孤爪くんのほうから持つって言ってくれたし…となるべく気に病まないようにする。

(あ、)

案外、背が高いんだなあ。
いつもあのバレー部のメンバーに囲まれてるうえに今まで直径2メートル以内に入ったことがなかったから気づかなかったけど、私より、普通に10センチくらいは高い。何センチくらいだろう。

「孤爪くん、身長、何センチ?」
「え、ひゃく、ろくじゅう、きゅう?」
「うわー11センチは違う!」

169センチかあ!そっかあ!私は変な感動を覚えている。
本当、結構、高いんだなあ。
そう思うと途端に意識しだした。えっ、私の図太い神経はどこにいったの。なんかいきなり激ヤセしたみたいだけど。
ふわあ、と顔に熱が集まる。うわうわうわ。どうやら柄にもなく照れているらしい。

「あっ、うわ、ありがとうホントに職員室まで…!」
「いい、通り道だし」
「あの、あとはノート私持つから…提出するから、ドア開けてくれますか」
「大丈夫?」
「大丈夫」

孤爪くんのしなやかな手が職員室のドアを開ける。「何から何までありがとう!」「うん、じゃ、おれ部活行く」職員室のドア付近で会話するわけにもいかず、会釈して、ノートを提出しに職員室へ踏み入る。

「先生ノートです…!」
「おお、プリントは?」
「あーここわかんないんです!」
「どれどれ」

ああもう心臓がうるさい!


「アッこのプリント孤爪くんの……!」

ノートの山の上に孤爪くんはそのまま忘れ物のプリントを置いていってしまった。から、必然的に私の手にその忘れ物は来た。
課題だし、これ。どうしよう。
部活が終わるまで体育館の外で待ってても迷惑じゃないだろうか。
プリントを丁寧に折りたたんで、荷物をまとめ、意を決して体育館外に足を進めた。
やばい。心臓がめちゃくちゃうるさい。練習終わりまでもつかな。



「オオオオイ研磨!!じょじょじょ女子待たせてんじゃねえか!誰だよあれ!」
「え?ああ、春駒さん。やっぱり」
「やっぱりって!やっぱりって!?」
「そーいや研磨お前よぉ、忘れ物取り行くつって手ブラで帰ってきたよな?」
「ニヤニヤしないでクロ、キモい」
「ほぉー、ヘェ〜〜。春ですなあー」
「黒尾ウッゼ。ほっといたれよ」
「…ハッ、お、お前まさか、確信犯か…!?」
「うるせーよ山本、何がだよ」
「山本にしちゃ冴えてるじゃん」
「ッッッ!!!……ウオオオオオ!!!」
「うっせぇ山本!居残り練するか!?」
「春駒さん、待たせてごめん。どしたの」
「えっファッ孤爪くん!?」



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