ビッチって言葉を聞いてイメージするのはどんな奴か、大体みんな同じだと思う。その言葉が表すところは、方向性は同じでも幅はそれなりに広いんだけど、基本的にみんなビッチって言うとアバズレとか簡単に身体を開くとかそんなイメージなんじゃないかと思う。少なくとも私はそうだし。自分の身体の値段をここまで下げるようになったのはいつからだっただろう。
何が悲しくて、何が楽しくて身体を売ってるのか、それはよくわからない。ただ抱いてもらわないとやってられない。私にだって好みはあるから誰彼構わずとはいかないけど、もう何人が私を抱いたかな。それで底まで満たされたことなんて一度もない。しないよりは全然マシだし、処理の相手が私でいいならこれは完全な利害の一致ということで。後腐れないように、一回だけという条件付きの上、私にはいくらかのお金さえ入ってくる。手に握らされた五千円札を見て、容姿のパワーってすごいんだなとぼんやり思う。
満たされない理由なんてとっくにわかってるくせに、こんなことするから、私はいつまでたっても満たされないんだ。

「一静、まだいるかな」
「呼んだ?」
「うん…ん?なんでいるの」
「忘れ物取りに来ただけ」

幼なじみと言えば聞こえがいい腐れ縁の松川一静。こんな縁、腐りに腐ってるようなもんだから、どっちかが切ろうと思えばすぐに切れるんだ。やさしい一静はそうしない。こんなアバズレに成り上がった幼なじみと縁を切るようなことをしない。私はそれにどうしようもなく呆れるし、かわいそうに思うし、悲しいほど嬉しい。
どんなに好みのタイプに抱かれても満たされない理由は、私がこの腐れ縁にしがみついているからだ。

「またやってたの」
「うん」
「前から思ってたんだけどさ」
「うん」
「男の趣味わりーよ、旭」
「うん」
「帰るか」
「うん」
「送ってやるから」
「うん」

今でこそ男子を誘えるくらい口八丁にはなったけどそれは所詮うわべだけの付け焼き刃で―――だって誘えればあとはたいしたこと言わなくていいんだから―――だから、どうしても、一静の前では何も言えない。私は元が口下手だ。

「うわ、樋口?」
「うん」
「スッゲー。太っ腹。男子高校生の五千円とか。スッゲー」
「ほしい?」
「イラネ」
「待たせてごめん」
「帰れる?」
「うん」

こうして事後に一静に会ってしまうと、今更気まずさはないけど、私なにやってんだろうっていうのと虚無感が一気に襲ってくる。
空っぽが際立つこんな時も、一静のやさしさは溶けて沈んで消えていく。ちっともこの隙間は埋まらない。別のところに一静のやさしさはどんどん溜まっていって、現実の形をして、この隙間に見せつけてくるんだ。お前は何をしてるんだって、激しくまくし立てる。
ごめんねも好きだよも信じても、言えないし、きっと言っちゃだめだ。

「お前もよく飽きねえなあ」
「飽きるって、いうか」
「なんだよ?」
「うん…なんでもない」
「ふーん」

飽きるとは違うんだけど、言えるようなことでもないし、もう、いいや。
一静のための空間がまだできたばかりの頃に、それを埋めようと一静以外の男子に抱かれたせいでどんどん空間は深くなって、本末転倒だ。負の連鎖って、言うんだろうか。
私と一静は、これからもずっとこのままとはいかないと思う。きっといつか、一静は私との縁を切ることなく、誰か私じゃない他の人と手を取り合って生きていく。そしたら私は、どうなるのかな。
いっそ殺してくれたらいいのに。
それなら、

「…腹上死したい」
「げっ、やめたれよ。相手がカワイソーだわ」
「うん…」

一静の、お腹の上で。
殺してくれないかな。



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