「そう、それでさ、昨日さ」
「まだ続くの?いい加減うるさいんだけど」
「肝試しやったじゃん」
「アーハイハイしましたね。及川さんの粋な計らいでお前と岩ちゃんをわざわざペアにしてやったやつね。感謝しろよお前」
「うんしてるしてる、んでね、いずがね」
「ちょっと。感謝してるフリくらいしたら?ねえ?そんなんで生きてけるの?」
「えっ生きてるからいずにこんなときめいてんじゃんクソだろ川」
「クソだろ川ってなに斬新だね」

屋上。最近いつも及川と一緒に昼飯食ってる気がする。誤解しないでほしいのは私は及川の彼女でも追っかけでもなんでもないってこと。私にはちゃんと意中の人が別にいる。岩泉一、通称いずというスーパーイケメンがいるのでそこんとこよろしく。及川?知らん。

私は青城男子バレー部のマネージャーをやってて、昨日はみんなしてちょっと季節外れの肝試しをした。なんやねん。こういうのは夏にやってナンボじゃないのか。だってそもそも涼を求めてやるものなのに、今の時期に涼は求めてません。ノーセンキュー。寒いわ。まあ面白いことには乗っかるべきだと思うからもちろん私も参加したけどね!英と賢太郎がものすごく面倒そうな顔して帰ろうとしたところはキッチリ捕まえましたとも。
二人一組で回ることになって、珍しくいい働きをした及川のおかげで私は無事いずと回ることができました。その時のいずがものすごく男前だったから責任とって及川に聞いてもらってるだけで。最近一緒に昼飯食ってるのも、惚気を聞いてもらってるだけで。アーユーオーケイ?オーライ?そこを誤解されたら困るからもう一度言おう、私が好きなのはあくまで「で、岩ちゃんがなんだって?」……被せてくるたあ出世したな。出世魚川。

「いずがめちゃくちゃ男前でさ、気が気じゃなかったんだよ私は」
「真顔やめてよ引くわ」
「今さらだろ。んで、いずさあ、普通女子と二人で回るとか嫌なはずなのに何も言わないわけよ」
「なに?無言だったの?」
「そういうわけじゃねえよ分かれよ。なんも文句とか言わないどころか私のことエスコートするみたいに歩いてくれてさ…死ぬかと」
「そんなんで死ぬタマじゃないだろ」

話し出すと止まらないから昼ご飯はなかなか進まない。及川の野郎聞きながら食べるなんて器用な真似しやがって。まあでもこいつはさすがに男子高校生だから食べる量も私よりずっと多いし、プラマイゼロだけど。
なんで及川に相談するかっていうとですね。クラスには『岩泉狙いのくせに及川くんまでキープしとくってことでしょ?』とか言ってくる子もいるが、私のいず愛をなめないでほしい。及川はいずのことをよく知ってるし、いずが私をどう思ってるかとかを一切言わないからだ。期待も失望もさせない。ただ聞くだけ。私は励ましてほしいわけでもなんでもなくただ吐き出したいだけだから及川が適任だった、それだけ。

肝試しでいずは私をリードしながら歩いてくれて、いや、怖いのは結構好きな方なんだけど、必要とあらば手を引いてくれたりして、その事実にときめくよりも私はいずのその心意気にときめいた。手を引かれたってこともだいぶ大きなことだけど!でも!ううう。こうだから私はなんか変って言われるんだちくしょう。よくあるやつ、たとえば素行の悪いヤンキーが雨に打たれた子犬拾ってたらときめいちゃって恋に落ちちゃった系のやつは、“ヤンキーが子犬に優しくしてた”って事実に恋してるだけであって、その本人を本当に好きになったわけじゃない……と、思う。勿論そのへんは人によるんだろうけどネ!私はその明確な事実よりも人柄に惹かれまくっているらしい。

「駄目だ言葉で表現できない!こういうときだよ自分の馬鹿さを恨むのは!」
「表現できる語彙身につけたらもれなく及川さんがやつれるからお前そのままでいいよ」
「ダイエットだと思えば?ちょっとはイケメンになるよ多分」
「岩ちゃんのこと“いず”って呼んだときの俺と岩ちゃんの衝撃わかる?それの半分くらいの衝撃だったよ今の切り返し。及川さんは今が一番イケメンでしょ」
「なんだ半分か。ていうかなにその自信、どっから湧いて出てるの?いずの方がイケメンなのにいずそんなことちっとも思ってないよ。見習え」

及川のくせに私の頭を叩いた。ブツブツ言いながら、私の頭を叩いた手でキャップをひねったペットボトルは、なに、ミルクティー?しかも世界的に有名なネズミの限定ラベル。女子か。いずが飲んでるのは大抵伊右衛門か紙パックのグッモーニン牛乳。私はめざめのヨーグルか、よ〜いお茶。及川のその女子力はイケメンに不要だと思う。イケメンというのはまさにいずを指す言葉なんだと改めて実感した。

「岩ちゃんイケメン談義は終わり?」
「んなわきゃないだろ表現してみせる」
「チッ」

ここで発散せずしてどこでしろと言うの。お弁当のおかずを素早く咀嚼して、よ〜いお茶で流し込む。ウッ喉に詰まった。落ち着け私、及川は逃げない。たぶん。

「肝試しの話に戻すけど、マッキーが考案した1個目のミッションあったじゃん」
「井戸の中覗いてこいってやつか」
「そうそれ、私それちょっと怖くてさ」
「嘘だろ?」
「シャラップ、怖いもんは怖い。で私がさ、うわ〜覗きたくねぇ〜って呟いたんだけど」
「可愛げもクソもないね」
「シャラップ、昔から。そしたらいずが、俺が見てくるって言ってくれて」
「えー、それルール違反じゃない?」
「シャラップ、聞いとけ。したらダメじゃんって言ったらさ、わざわざ手引いて井戸のとこまで連れてってくれて」
「そうなの?」
「そいで私が意を決して」
「引っ張らなくていいだろ」
「黙れ。そしたらこう、私の肩に手置いて、せーの、って言うから、同時に見たの」
「へえスゲー」

及川はこいつ聞いてんだか聞いてないんだか。ぶっちゃけどっちでもいい。語れれば私はそれで満足だ。
きゃーそれ絶対旭ちゃんのこと好きだよー!なんて言ってほしいわけじゃないし。私は、こういうことがあって嬉しかった!っていうのを言いたくて言いたくてしょうがないだけだし。正直言うと及川の代わりに、あのほら、胡椒みたいな名前のアンドロイドが座って適当に相槌打っててもたぶん私気にしないと思う。

「で、ホラなんもなかったべ、って笑って、頭くしゃくしゃってされたの」
「へえ」
「いずの男前ポイントが臨界点突破した」
「別にしてねえよ」
「だってさ」
「そうだね既にしてたわ。そんでいずがってあれっいつからいたの?」
「“井戸の中覗いてこいってやつか”から」
「なんだって」
「むしろそれ岩ちゃんが言ったよね。引っ張らなくていいだろとかも」
「そうだな」
「なんだって」
「気づくの遅くない?さっきから岩ちゃん俺の隣にいたから俺岩ちゃんに話しかけてたんだけど」
「……マジで」

さて、問題です。ジッとこちらを見てくるいずに、私は何と言うべきでしょう?



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