今日こそは外で寝落ちないと決めていた。2日も夜中に外出し、そのままそこで寝ていたと知られればみんなに何を思われるかわからない。それは、避けたい。
しばらくの間刀を眺め、手にしたその刀を持ち帰ろうと氷雨は歩き出した。それにしても鞘が見当たらないから刀身をむき出しにして持って帰るのか……ここが現代ではないと言えいくらなんでもそれはさすがに危ない人ではないだろうか。真夜中だけれど。
周りを見渡してもそれを隠すものが何もないため、仕方なく制服のブレザーを脱ぎそれを刀身に巻いて持って帰ることにした。

月明かりが細く辺りを照らしている。昨日より少なくなった月明かりを頼りに来た道を戻る。気づかぬうちに大分奥まで来てしまっていたのだろう。20分ほどかけてようやく村の中に戻ってきた。そして屋敷の中に入り一行が借りている部屋に静かに入った時。





「………おい」
「!!」





皆を起こさないように、かつ中々のドスのきいた声で白い頭が動いた。また出かけていたのがばれてしまった。犬夜叉はパチリと目を開けると暗闇の中なりに氷雨を見上げ、そしてその手に握られているブレザーに包まれたそれを見やった。





「お前、それ…」
「………ひ、拾った」





嘘ではなかった。もしかしたら祀られているものだったかもしれないが、一見すると長年誰も触れていないようにも思えた。だから、拾ったと貫こう。
そう犬夜叉に返し、自分が元々寝ていた場所にサッと戻ると、刀をそのまま脇に置き犬夜叉に背を向けて横になった。





「………」






持ち帰ってきた刀に、犬夜叉が鋭い視線を投げていたことは気付かぬまま、氷雨はすぐに眠りに落ちていった。










◇◇





今日も太陽がさんさんと輝いていた。朝日が眩しい。宿を出てまた旅に出た一行の道中での会話はやはり一晩明けて何故か氷雨が持っていた刀の話になった。





「氷雨、これどうしたの?」
「………昨日拾った…」
「氷雨ちゃん、もしかしてまた夜出かけたの?危ないわよ!もう!」
「ご、ごめんかごめ…」
「それにしても白いのぉ!」
「かすかに妖気も感じますね…」
「昨日こいつが持って帰ってきたときはもっと妖気があったぞ」
「え、嘘。これが妖気…?」




どうやら満ち溢れる力の正体は“妖気”のことらしい。ということはこれが俗に言う“妖刀”なのだろうか。
確かに昨日の夜よりは力は収まっている気がする。何故なのかはわからないが。





「ともかく、鞘がないのも気になりますね」





弥勒の言葉に一行もうーんと頭を悩ませた。
刀と一心同体である鞘。
これほどまでの妖気を含む刀ならばそれを抑えるための力を持った鞘が必要だが、それがどこにも見当たらなかった。これでは妖気がダダ漏れになってしまう。どうしたものかと思っていると、





「「!!」」





ドン!と大きな音を立てて目の前に“牛”が降りてきた。






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