※捏造ばっかり
その昔、この世界は巨人に支配されていたらしい。私はいつも通り図書館で巨人史のコーナーから1冊の本を取り出した。
いつみても壮絶な時代だな、と第三者目線で思う。超大型巨人に、捕食される人類、壁の中の生活…今のような静かな世界とは全く逆の、激動の時代。まぁ今の平和はその時代の人たちが積み重ねてくれたおかげでもあるのだが。
「結衣。」
「リヴァイさん。」
ふと呼ばれ顔を上げると、いつも通り眉間にシワを寄せたリヴァイさんが立っていた。うーん、いつもながら上から見下ろされると迫力が凄まじい。
「また巨人史か。お前も物好きだな。」
「そういうリヴァイさんこそ巨人史が好きじゃないですか。」
「お前と一緒にするんじゃねぇ。」
そう言いつつもリヴァイさんは真向かいに座ると、私の読んでいた本を自分のところに引き寄せ、片肘をつきながらパラパラとめくっている。相変わらず素直じゃないなぁ。
「すごい時代ですよね、巨人が支配していた時代って。」
「……ああ」
「ほんとにこんな時代があったのかーって、思っちゃいます。」
「………」
「リヴァイさん。」
「なんだ?」
私リヴァイさんのこと、たまに兵長って呼びたくなるんです。
そう言えばリヴァイさんは本から顔を上げて私を見る。眉間に寄せられたシワがさらに深くなっている。
「どうしてでしょう?」
「それはこっちが聞きてぇな。」
「変ですよねー」
そう笑えばリヴァイさんは微笑み返してくれた。多分、誰にもわからないくらい小さく。私はこの空間が好きだ。
「結衣…っ、結衣!!」
「………へい、ちょ…」
轟音が響く。血の臭いがする。目の前には、リヴァイ兵長の顔。
「しっかりしろ!」
「ここ、は……」
視界の端にハンジさんも見える。みんながバタバタと動いている中、体を動かそうとして兵長に止められた。
「お前は馬鹿か!一人で突っ込んで行きやがって…!」
「へい、ちょう…」
「あ!?」
兵長がこんなに慌てるなんて珍しい。そのことに少し笑ってしまうと兵長は一層眉間にシワを寄せた。あ、夢の中の兵長と一緒だ。
「…ごめん…なさい……」
「…黙ってろ。」
兵長はそう言うと、すっと私の膝の裏に腕をいれ、持ち上げる。そうして、私を揺らさないように、でも急ぎ足で医療班のいるほうへ向かってくれた。
逆転した世界は、今の私にはどんなものよりも残酷だった。
つい先ほどまでは確かにあった左腕を見つめ、少しだけ、兵長の胸で泣かせてもらった。兵長は何も言わない。
この世が、あんなに平和な世界なら……
ああ、もう本が読めないや。