汗だくになって、脚がガクガクと震えて、それでもペダルを踏んで踏んで、着いた先は峰ヶ山の頂上。平坦区間を得意とするスプリンターである私はこうして、苦手である登りの特訓をしていた。

登りはやっぱり辛い。クライマーはすごいな、すいすい登っていくもんな。
峰ヶ山頂上付近の駐車場で愛車のビアンキから降りて近くに停める。そしてそのすぐ横に倒れるように横になった。

日差しを遮るものが何もないから直射日光が全身に当たるが、そんなことを気にする余裕はない。切れる息をなんとか整えようと肺が、心臓が、とてもがんばってくれている。



「クハッ、大丈夫かー?」



口でハァハァと息をして地面に横になっていると、眩しい日差しを遮るかのように真上に人が現れた。その人の髪の毛が私の顔に落ちる。玉虫色の綺麗な髪は日差しでより一層キラキラと輝いていた。



「……だ、だめ…です……」
「本当に登りが苦手ッショ、結衣は」



ケタケタと楽しそうに笑うその先輩はほぼ息が上がっていない。きっと今下から登って来たはずなのに。憎い。なんでこんなに差があるんだ。



「そう…思う、なら、私に登りを……伝授して、くださいよ…!」
「こればっかりは個人の才能ッショ」



お前はスプリンターだから平地で頑張るんだな、と続けた先輩は、私の愛車に装備されていたドリンクを渡してくれた。起き上がってスポドリを受け取り飲み干したところでやっと息が整った。ふぅ。

クライマーに憧れを抱く私は練習の度に登りで燃え尽き、こうなる。巻島さんも自主練中なはずなのにこうして毎回、わざわざ手を伸ばしてくれるところは、何だかんだ言って優しい。ただの気まぐれかもしれないけれど。またきっと今日も私がある程度落ち着いたら2人一緒に山を降りていくことになるだろう。峰ヶ山での練習ではこれがいつものパターンである。



「これだけ登ってるのに一向に登りのタイムが変わらないなぁ…」



切ない…と零すと巻島さんはまたハッと笑った。酷い、真剣に悩んでいるのに。でも好き!と伝えるとハイハイと流された。いつも通りクールですね。そんなところも素敵なんですけど。



「すみません、お待たせしました」



ひと時の休息を終え、ビアンキに跨る。先に少しだけ進んで行った巻島さんの後に続く。後ろから見てもやっぱり巻島さんは素敵だ。こんな風に自分のスタイルを貫いて、周りを圧倒させる人になりたい。
キラキラ輝く玉虫色に追いついて、少しでも近づくために、まずは私も髪を染めようかなって呟いたら怪訝な顔で止めとけって言われた。

太陽は相変わらずサンサンとしている。
夏はまだ始まったばかりだ。



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