※名前変換ありません
※「戦場の黒猫」if





どんなに欲しくても手が届かないものがあることを物心がついた時に気がついた。ああ、私には無理なんだ、与えられていないんだって。それが私には、周りの環境だっただけだ。



「……ここにいたのか」
「犬夜叉!」



夕方通りかかった大きな木に登り、少しだけ近くなった暗闇と瞬く星を見つめていると、夕方出会った半妖が木の根元に現れた。きっと夜になって楓さんの家を抜け出したことがばれていたのであろう。犬夜叉はそのままひとっ飛びで私の隣にやってきた。



「なにしてんだ、風邪引くぞ」



人間は弱っちいからな、と付け足した彼の言葉はきつかったけれど、やっぱり優しさが垣間見える。心配してくれたんだと少しくすぐったく思う。



「たそがれてた」



星が綺麗だなーって、と返せば、ふーん、と気のない返事が返ってきた。



「…誰かが傍にいるって、とても幸せなことだね」



視線をそのままに、ぽつりと独り言のような違うような。

疎まれ除け者にされても必死に笑ってきた今までを思う。
おばあちゃんは私に、“何があっても笑っていなさい”と常に言っていた。笑っていたら、おばあちゃんの言うことを守っていたら、いつか私もみんなみたくキラキラした場所にいれるのかな、みんなみたく誰かが傍にいてくれるのかなと信じて、いじめられても無視されても何をされてもいつも笑ってきた。それでも結果として、おばあちゃんは亡くなって私はさらに1人になった。



「犬夜叉」
「あ?」
「仲間に入れてくれてありがとう」



1人になった私に出会ったばかりの彼らはとても優しくしてくれた。手を差し伸べてくれて、心配してくれて、受け入れてくれて。おばあちゃんから与えてもらった愛とは違う、暖かい気持ちをくれた。それが彼らにとってただの好奇心、ただのお節介なだけかもしれない。だとしても、とても嬉しい。



「私ね、あなたたちのために生きるよ」



せめて少しでも与えてくれた愛を返したい。でも私は何も持っていないから。だから私が生きている間、私はこの人たちのために生きよう。この人たちのために戦おう。この人たちのために…死のう。
静かに聞いていた犬夜叉の方を見ると、何ともいえない顔をしていた。それが可笑しくてふふっと笑いが零れた。
今までとは違う、心の底から楽しい笑いだった。















………

……












苦しい。息が出来ない。どうやら肺を潰してしまったようだ。ひゅーひゅーと喉から発する音を聞きながらぼーっと立ち尽くしていた。目の前には苦戦を強いられた敵の亡骸がバラバラと散らばっている。
みんなを無理に先に行かせてよかった。私はどうやらここでの足止めが成功したようだ。ふっと笑いがこみ上げてくる。よかった、本当によかった。

次の瞬間脚の力が抜けて気がつけば地面に横たわっていた。ドクドクと胸から流れる血が止まらない。温かい。ピクリとも動かない身体をそのまま血の海に投げ出した。



「……あぁ、」



何となく自分の死期を悟った。
ここで私は死ぬんだな。悔いはない。大切な人たちのために生きて、大切な人たちのために死ねるのだから。最期までみんなの役に立ててよかった。

犬夜叉、かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、雲母…
みんな泣いてくれるかな…いや、それよりも怒られそうだな。想像が容易くてまた笑いがこみ上げた。
浅かった自分の呼吸がだんだんとゆっくりになる。ああ、なんだか眠くなってきた…

みんな、ごめんね…ありがとう…










おばあ…ちゃん……




















「……馬鹿野郎」



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