ちゃぷん。耳の近くで淑やかに音を立てた。
青、青、青。屋外プールはいいものだ。全てが私の好きな色に染まるから。でも夕焼けを映すプールもまた違っていい。
ざばん、と水の中に潜る。そうすると、真琴が水を掻き分ける音も渚が玲をいじめる声も、怜が渚に反抗する声も、何もかもぼやけて聞こえる。
「(静かだ。)」
潜ったり、旋回したり、浮き上がってみたり。水の中では人間すらも飛ぶことができる。私は自由だ。
「(ハル)」
向こうから泳いでくる藍色を見つけ、しばらく止まってみる。彼もまた私と同じように自由な時間を楽しんでいた。
水の中で彼を見るのはある意味初めてかもしれない。とても楽しそうで、とても綺麗。
「(あ、)」
目が合った気がした。もっとも、確証はないけれど。
でもハルは、笑ってた。
「(珍しい。)」
なんだかそれだけでも嬉しくなって、私は自由な世界から帰還する。
◇◇
「結衣ちゃんって、人魚みたいだよねぇ」
「人魚?」
水から上がると、渚が楽しそうにそう話していた。
「うん!さっきもすごく楽しそうに泳いでたし、種目は個メだからなんでも泳げるし!」
「人魚って…恥ずかしいよ」
キラキラした目で見つめてくる渚の視線から逃げるように、江ちゃんから受け取ったタオルで顔を隠す。人魚って…私はそんなたいそうな泳ぎをしていないのに。
「遙先輩もとても美しく泳ぎますが、結衣先輩は優雅ですよね。また違った美しさというか…」
「そうだね、綺麗だけじゃなく自然というか…?」
「鍛えられた、でもつきすぎていない女性らしさを残した素敵な筋肉…!」
「真琴と怜、江ちゃんまでそんなこと…」
綺麗とかいろいろ言われるとやっぱり照れる。私の居心地がいい感じに悪くなったところで、ハルが水から上がってきた。
「ハルちゃんハルちゃん!結衣ちゃんって人魚姫みたいだよね!」
「………」
ほら、答えづらい質問するから黙っちゃってる。まぁ、ハルは元々無口だけどさ。それにしても“姫”が増えてるのが気になるよ渚くん。
「人魚姫?」
「うん、なんというかさ、」
「優雅でとても楽しそうで、優しさが溢れているといいますか!」
怜、優しさのある泳ぎというものをぜひどんなものなのか教えて欲しいです。
「もう恥ずかしいからやめようよ…!」
「結衣…そうだな、」
人魚姫、だな。
ハルが、ちょっとだけ笑って言った。あの、水の中で浮かべたものと一緒だった。
私は、いたたまれずに水に飛び込んだ。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!
でも、嬉しかったよ。
後ろでは、みんなが笑っていた。