手を伸ばしてみた。暖かい。その人は私よりもほんの少しだけ温もりをもっていた。
「………どうした?」
「ううん、なんでもない」
少しだけ眠そうな藍色の髪がふわふわと動く。のっそりと起きた姿は何だか大きな動物のようでふっと笑ってしまった。
「……?」
「ごめんね、サスケがなんだか可愛くて。」
変わらず頬を撫でていると、“可愛い”という言葉が気に入らなかったのか、それとも窓から差し込む光が眩しいのか眉根を寄せたサスケが、頬を撫でる私の腕を掴んだ。
力強く、それでいて優しい。まるで彼の性格がそのまま表われたようだ。そしてそのまま悪い笑顔を浮かべる。
「襲われたいんだったら素直に言え」
「違うよ、別にそんなんじゃ…」
「遠慮すんな」
「うわっ」
「………」
「………っぷ」
じゃれてくるサスケをどうにかよけたかったのだが腕を引っ張られ、2人でベッドに転がる。何だか急に楽しくなってしまって、吹き出して笑ってしまった。サスケも何だか口角が上がっている。楽しいのかな?
「……ねぇ、サスケ」
「…なんだ?」
「私、今とても幸せだよ」
「………ああ」
私たちが忍者でなければ、きっとこんな平和が続くんだろうなと不意に思う。サスケも復讐だなんて言わず、私も血継限界でない世界。いや、この世界でも決して出来ないわけじゃないけれど。
「……なぁ、結衣」
「なぁに?」
“愛してる”
「………」
どうやら居眠りをしていたようだ。目を開けると視界いっぱいに広がる白い壁。いつも通りの目覚め。
ゆっくりと起き上がる。変わらない白い壁の部屋の中は、変わらず何もない。
「(………なんだか)」
懐かしいような夢をみた。でもサスケ、って誰だっけ?確か前にサクラに覚えてないの?ってしつこく聞かれた人だって?そんなような名前だった気がするけど…あの人が、サスケ?
窓から光が差し込んでいる。天気がいい。散歩に出かけたくなるくらい平和だ。今日はちょっと歩いてみようかな。あまり遠くには行けないけれど。病院の中だけでも。
「さ、す、け」
意味もなくつぶやいてみた。よし、外に行こう。
ベッドから這い出す途中、なんだか急に心が切なくなったのは何故だろう。