海軍基地マリンフォード。銃声轟き、敵も味方も次々と倒れるこの地で、父さんが叫んだ。
「最期の船長命令だ!!!よォく聞け…!!」
嗚呼、もう“最期”…なんだね。
父さんの身体はもうボロボロだった。ただでさえ、身体を壊していつも身体中にチューブをつけているのに、たくさんの攻撃を受けている。
もう…
もう、限界なのかな。
初めて会ったときと変わらない大きな背中。この背中に何度守られてきたのだろうか。もう、この背中が消えてしまう。私の中での大きな大きな存在が…
そう認識した瞬間急に怖くなり、
父さんに駆け寄った。
「……私は残る…っ!」
走っても走っても父さんの場所は遠くて、
「来るんじゃねぇ…!バカ娘!!」
私を突き放す低い、大好きな声がこのときほど嫌になったことはなかった。
「やだ!残る!!」
「親の言うことが…、聞けねぇのか…!」
「……聞けないよっ!父さんと一緒にいる!!」
「結衣!!」
「結衣やめろ!早く来い!」
聞きたくない、聞きたくない。
みんなが私を引き止める。
どうして、どうして。
振り切れないみんなの手。
お願い、お願いだから…
私はまだ、貴方に恩を返せていないのに。
「父さん…!!!」
手を伸ばしても、この手は空を切るだけで……
大きなその背中に、いつまで経っても届かない。
「…娘の最後の我が儘すら、聞いてやれねぇ父親だが……」
俺は……、てめぇが娘で、よかったぜ……
背中越しにそう言った父さんの姿が、滲んでよく見えない。
背中に刻まれた白ひげのドクロ。
私の右肩の入れ墨と同じあれが、なんだか遠くなった。
「てめぇら!!!………結衣を……絶対に護れ…!」
「「オヤジ!!!」」
太刀を振るって叫んだ父さんに、私の泣き声が掻き消された。
「いやだよ!父さん!!父さん!!!嫌だぁぁぁ!!!」
「さよならだ……俺の、」
最初で最後の愛娘……
目が覚めたときにはもう、全てが終わっていた。
あのあと私は気を失ったらしく、私は大切な人の……父さんと兄さんの死に際を見ることができなかった。
自分の両手を見つめる。傷だらけだ。
「…あの時……、」
もっともっと手を伸ばせば……何かが変わったのかな?
大切な人たちを救えなかったこの両手が憎らしく思えた。
近くにあったナイフでぷつっと左腕の皮膚を切った。赤い液体が滴る。何も、感じなかった。
痛みも悲しみも何もかも。
それを感じ取った瞬間、私の目から似たような暖かさの液体が流れた。
「ばいばい」