もらっていた鍵でそっと音を立てずに入る。真っ暗なその部屋はいつも見慣れている風景だ。

ちょっといい顔をすれば彼はいつも快くいい返事をくれる。“結衣に頼られるなら本望だ”なんて言って。…なんて馬鹿なんだろう。私が本心でどう思っているかも知らずにいつもニコニコと笑う。



なら“私のために犠牲になって”と言えば、また笑顔でいいと言ってくれるのでしょう?



そっとベッドに近づけば、いい夢を見ているのか寝顔までもニコニコと笑っていた。少しだけ罪悪感が出た。





「(…いや、私は生き残らなきゃいけないんだ)」





元々彼と私じゃ生きる世界が違ったんだと自分に言い聞かせ、仰向けの彼に跨った。少し身じろぎをした彼に冷や冷やするも、……うん、まだ起きてない。





「……ごめんね」





初めて吐いた彼への謝罪と同時に首元に噛み付いた。あ、起きた。





「結衣、…っ…!」
「……まだ夜だよ」





おやすみ、と言い終わる頃には彼は静かになった。…何度やっても美味しくなんてない。鉄の味が口いっぱいに広がる。早く口をゆすぎたいなぁなんてピクリともしない彼の上から移動する。台所を借りようかな、なんて呑気なことを思っていると、










「やっと、来てくれたんだな」






「!!」





背後から、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。





「な、なんで…」
「あんなに思わせぶりな態度してたのに、結衣はずーっと他の奴らを狙うんだもん」





俺、嫉妬でどうにかなりそうだったよ、とベッドの脇に立って首筋を真っ赤に染めて彼は笑っていた。





「まさか…猫又…!?」
「……そうだよ」





ニンマリと笑う彼に、冷や汗が垂れる。まさか、そんな…





「結衣に殺されるのは、俺だけでよかったのにさ」
「……っ」
「まぁ、もう死んだ奴らはどうでもいい。……俺さ、この能力知った時に、絶対昼に処刑されるなんて嫌だって思ったんだ」





絶対に、結衣と死のうって…



じりじりと間合いを詰められ、気がつけば彼の腕の中にいた。馬鹿みたいに脚が震えている。
に、逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!!嫌だ、死にたくない!!





「やっと…だ……」












愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる…
だから、一緒に死んで。





意識が途切れる前に唇に感じた何かは、とても柔らかかった。







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