夜が来る。また、あの暗闇が来る。 窓から何も見えない外を見つめ、覚悟を決めた。 今夜、私は殺されるだろう。それでもいいの、だって…
「貴方のために、生きていたようなものだから…」
振り返ると、いつも通り音もなく入ってきた貴方は、いつになく真面目な顔をしていた。やっぱり、貴方たが狼だったんだね。
「今夜、なんだね。」 「………」 「大丈夫、そのために今まで場を乱してきたんだから!今日私が死ねば、みんなの勝利はほぼ確定だよ!」 「……結衣っち…」 「……黄瀬くん、」
彼に一歩ずつゆっくり近づき、手が届くくらいの距離に近づけば、彼はより一層眉根を寄せた。 ねぇ、そんなに怖い顔しないでよ。
「今まで、ありがとね。」 「………」 「絶対、黄瀬くんたちなら勝てるよ」 「結衣っち…俺、」 「泣かないで」
そっと頬に手を伸ばせば、力強く抱きしめられた。ああ、この腕も最後かぁ。そう思うと少しだけ涙が込み上げてきたけど、ぐっとこらえて黄瀬くんの背中をさすってあげる。
「(私が貴方と同じ狼だったなら…)」
もっともっと、一緒に居られたね。私がただの人間だったばかりに、貴方に辛い思いをさせちゃうね。 本当は、貴方と生きたかったという思いは、誰にも告げずに。私の願いは貴方の願い。狼が、生き残ること。私は狂人、狂ってしまった人。人間なんてどうでもいい、貴方達が、生きてさえくれれば。
嗚咽を上げ始めた黄瀬くんの体を自分から離し、潤んだ黄色の目と対面する。とても、綺麗な色をしていた。
「そろそろ、時間だね」 「……っ…」 「さぁ、」 「…ごめん、ごめんねっ……結衣っち…!」 「ううん」
首筋を差し出せば、ゆっくりゆっくりと顔が近づき、やがて激しい痛みとブチブチと何かが切れる音が耳の近くで聞こえた。意識が、遠ざかる。左目から零れた一筋の滴を、どうか貴方が知りませんように。
「………愛してる、私の…」
たったひとつの…希望…
最後に見えたのは、やっぱり貴方の泣き顔で。 その泣き顔に、全てを託した。
ああ、次の世界では、貴方と結ばれるかしら?
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