フッと意識が浮かび上がって、黒琥は息を吐きだした。
そこは見たことの無い部屋だった。

どこかホテルの一室だと思うが、やけに豪奢な造りで寝室にはキングサイズのベッドが一つ置かれているだけだった。
誰もいないと思ったら寝室のドアがガチャッと音をたてて開いた。
そこには白のガウンだけを来た惣一が佇んでいた。

「大分寝てたな」

そして兄はゆっくりと黒琥の方へ来ると…ベッドの端に座った。
そのままベッドサイドに誂えられた冷蔵庫に手を伸ばして、缶の酎ハイを取り出してプシュッとプルトップを開け、飲み始める。

「あんたでも缶飲むんだな」
「はぁ?当たり前だろうが、お前は俺を何だと思ってるんだ。」

勝手に黒琥の中では、惣一は缶やペットボトルやコンビニの食事などしないと思っていた。

「…いやアンタのイメージに合わねぇなと思って」
「そうかよ」

そう一言だけ零して、惣一はそのままコッコッと酒を飲み干す。
そして一缶をすっかり空けると惣一は缶を冷蔵庫の上に乗せると、ベッドで仰向けで寝そべっている黒琥に視線を向けた。

「それならテメェのイメージが俺ん中で崩れまくってるぞ、黒琥。」
「だろうな」

否定できないのが辛いところだ。
黒琥が肯定すると惣一の眉が上がる。

「テメェは男に強姦されたぐれぇでしおらしくなっちまうのか?弱えな、オイ。」

それはされたこと無いからだろと言い返したくても、起き抜けの俺は弱っていて、もう言い返す気力もない、このまま寝たい。

「なんか言え」

ギシッとベッドを軋ませながら、にじり寄って、俺に覆いかぶさる兄貴。
目の前に冷徹な雰囲気を漂わせ、男前の兄貴の顔が広がる。
それでいてふわっと石鹸の香りがした。

「…一人じゃない」

兄貴の黒の瞳が驚きで見開かれる。

「どういうことだ?」

「複数相手に何回も、だった。」

俺は思わず、こみ上がってくるものに耐えて唇を噛んだ。
…冬樹と白鷲と黒田相手に何回やったか覚えてない。

「俺はッ阿婆擦れだっ」

自分で言って、自分で絶望して俺は顔を覆い隠す。
恥ずかしい、自分が自分で…そんな俺に兄貴は何も言わない。
それはそうだろう、弟がこんだけ汚くちゃ言葉もないだろう。

「・・・うるせぇ」

やがて聞こえてきた声は最高に不機嫌で、怒りに満ちていた。
そして強引に顔を覆っていた手首を掴まれると無理やりにベッドに縫い付けられる。


「てめぇが阿婆擦れってんならよ…女扱いで良いな。」


「っな!」

なにをと問う声は兄貴の噛みつくような口付けで掻き消された。
俺は呆然と、口付けを受ける。


だって今、『選択肢』は出ていないのだから…


クチュリッと水音とたてて舌を甘噛みされ、唾液を絡ませて熱を交換する。
「ぁぁっんっぅっ」
クチュクチュと敏感な口内を舐めまわされれば、俺の体は蕩けていく。

そんな馬鹿な。
兄貴が、惣一が俺を相手にする訳ないのにっ!!
スルリッと体の脇を愛撫した掌にビクッと鮮やかな反応をしてしまえば、無防備に開いた口の舌が吸われる。

ピチャリッ

互いに息が上がったころに離れたキス。
あまりに近い距離で見つめ合うと、惣一は黒琥を両腕で囲う様に捕らえて嗤った。

「俺の腕の中で庇護され、囲われるなら抱いてやろう。」

それは絶望だろうか、ヒュッと飲み込んだ息が上手く吸えなかった。


ゲームじゃない現実だ。

これは…ずっと現実だったんだ。








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