非日常2
頭脳は大人、体は子供のアンバランスさは周囲との隔たりを生んだ、それは俺が感じている大きな壁だった。
だが俺が感じている壁は周囲の大人たちには関係ないらしく、むしろ両親などは幼い時から大人びている俺を褒めた。
それがより俺を苦しめた。
この世界から、俺は隔絶されている。
それを正しく認識しているのは俺だけ。
周りは俺を受け入れる、否、顔の裏で何を考えているのか分からないけれど。
だが受け入れるフリであろうと無かろうと、この世界に一人放り投げられている異邦人であることこそが俺にとっては罪だった。
いっそお前はこの世界には要らないと言ってくれることこそが俺の救いなのに。
俺は知っている。
知っているんだ。
死んだんだ俺、死んで俺は何者になったのか。
そんな闇の中を幼子にして歩む。
化け物じみている。
そのフレーズが頭から離れなかった。
ずっとこびり付いて離れなかった。
だから頭にこびり付いた、その燃焼物からジワリジワリと非日常は染み出してきた。
小学校に入ったとき、中身は35をとうに超えていた俺はダラーズを創設した。
*****
それはただの暇つぶし、だったのかもしれない。
それはただの前世の記憶の確認として選んだ行為だったのかもしれない。
好きな小説を読み返すように、俺は現実でその小説のページを繰り出した。
ダラーズの始まりはネットでの虚構だからこそ小学生だった俺でも出来た。
いや中身は30歳をゆうに超えているから出来た。
兎にも角にも、HPを立ち上げ、パスワードを作ってBBSにそれらしき事を書いて、ネットの仲間を少し募って、俺は作り上げた。
すると、あの小説の主人公・帝人が遭遇したように、一年程すれば実際に存在しないダラーズを名乗る連中が池袋に現れて、ある事ないこと事件を起こしていった。
最初に募ったネット仲間は皆怖くなったのか消えていた、だが俺は管理を続けた。
現実でありながら現実でない、この世界を観察し続ける。
それには俺の興味をこの世界に繋ぎとめる必要がある。
それがダラーズだった。
そんないつもの非日常の中で、フッと気になって俺は来神小学校をYAHOOで検索かけた。
それも暇つぶしになる筈だった。
だが俺は忘れていた、非日常が日常になり、忘れていたのだ。
結果はヒットだった。
思わず、PCの画面を食い入るように見詰めてしまう。
「こんなことって」
あるのか、いやまさか、そんな筈が無い。そんな筈がないんだ。
だってあれは小説の中の話だ。
けれどもしこれがアノ『来神小学校』で。
おそるおそるクリックすると。
系列として『来神中学』『来神高校』と続き大学までがあるのに俺は胸の中で何かが崩れそうになる。
バカな、馬鹿な、バカな
「うわああぁっ」
世界が違うんだ、此処は俺の世界じゃない。
俺は世界から放り出された、そして俺は今、何処にいるんだ?
そして非日常は回り始める。
くるくると回って俺を雁字搦めにする。
俺は来神中学を受験した。
桜が舞い散っていた。
はらはらと舞い散る、その桜の下で。
俺は、俺が何処へ来たのかをやっと知った。
クラス替え表の前に立っている『彼』を見つけた。
折原臨也を。
俺は俺の非日常を今、本当の意味で理解した。
俺は俺の世界に隔絶されて来た場所を理解した。
そして答えをくれたのは『彼』だった。
桜が散っていた。
はらはら散る、その桜の中で。
『彼』だけが確かな俺の世界だった。
*****
本宮真貴という男は昔から謎が多かった。
始めて彼を見た時、桜が降っていた。
吹雪のような薄紅の花びらの中で。
彼は俺に近付いて、
『君は来神小学校あがりかな?』と尋ね、凛と俺の横でクラス表を見上げていた。
『ああ、そうだけど』
この頃の俺は優等生で通っていたから、そう答えれば、『君とは仲良くしたいな』と言って、俺に視線を向けてくる。
漆黒の吸い込まれそうなほど深い瞳だった。
端正な男らしい顔立ちだ、けれど中が伴ってないと思った、それぐらいどこか人間離れした空気を持っていた。
人間味が無い。
普通の感覚だったら同じクラスかもわからない人間にクラス表の前で『仲良くしたい』だなんて余り出る言葉じゃない。
同じクラスだと分かったら仲良くしようと言っても可笑しくは無いけれど。
だが友人を早く作りたい集団大好きな人間だろうと思った。
来神小学校の出身か尋ねたのも俺の背後の人脈を計ったのだろうと思った。
けれど俺は孤立を好み、人の輪の外から人間観察をしていたいから、こういった集団形成に煩わされたくなくて、コイツを少しウザッたいと思った。
『宜しく』
だが言葉だけはかけておく。
余り無いシチュエーションだから面白かったのも認める、そして、その言葉だけで俺は真貴の前から立ち去った。
自己紹介もしない、もう二度と会わないだろうと思った。
けれどその直ぐ後に1年3組で再会してしまったけれど、それすら真貴は想定内のような感じがして、少し真貴に興味が湧いたのだ。
後に俺が愛し、憎んだ。
たった一人の人間と過ごす最初の一年になる。
◇