非日常の序章を語る物語

自覚があった。

何がって?

転生してこの世界に飛ばされた自覚のことだ。
俺はこの世界全てから隔絶された化け物だった。

ただそんな中でアイツの言葉だけが、俺の中に降り積もる。

そして俺は非日常に捕われた。

*****

お前は人をしたことがあるのか?

なぁ恋してるんじゃないぜ、そんなことを俺は聞いてない。
これは俺にとって酷く重要な問いなんだ。
それにお前が答える義務があるのかって聞かれたら無いがな。

愛したことがあるのかと聞いてるんだ。
人間を愛してるなんて抜かすな、人間を愛さなくちゃいけないなんて、mustを使ってる時点で俺にしたら、そんなの愛じゃないんだよ。

やめろその薄っぺらい笑みを。

それは余計なことに割く時間が勿体無いから使ってるmustだって?そんなの前後の文脈を計れば知ってる。

けどなお前の愛は単なる言葉の羅列だ。

お前はよく人を使い捨てにするがな。
愛してたら切り捨てられない。
お前が手を下さずとも殺した人間は大勢いるだろう?

まぁとにかく愛してる奴のことを考えるとだな。
頭んなか、そいつのことで一杯で、染まってる。侵食されてる、頭のなかを喰い散らかさせてる。
愛するものの触れた物、吸い込んだ空気、匂い全部が全部愛しいもののに分類されていく。
自分の生まれてきた意味も、過去も、経験も、愛する存在に集約される。
俺という存在の全てがそいつのためのものなんだ。

愛したことの無い人間には分からないだろうな。世界は俺で、俺は世界だ、何も不足していない。

まぁ現象としては食事をしてても風呂入ってても誰かと喧嘩しても不安なことがあっても嬉しいことがっても寝る瞬間も寝てるときは流石にわかんねぇが、夢にけっこうな頻度でそいつが出てきたり、まぁ全部がそいつに侵食される。

まぁとにかくそんな現象。

お前は人を愛したことがあるのか?

なぁ臨也。

*****

「嫌だなぁ考えの押し付けは良くないよ。
それは真貴の考えだろう?俺は俺なりに人間を愛してるよ、ファイナルアンサーね。」

くるっと振り返った臨也は生き生きと笑っていた。サンシャインの噴水の前で、夕焼けに染まる臨也の顔は無駄に整っている。
俺がこの系統の質問をしたのは始めてだったから酷く奴は楽しそうだ。
予想通り二ィッと酷く真っ黒に笑う。

「それよりもさ中学から一緒だけど、真貴こそ特定の誰かを愛したこと無いくせに、俺に問うことなんてよく出来たね。」

「俺にその権利がないとでも言うのか?」

「いや権利はあると思うよ、ただアレだよ経験してもいないのに他人に価値観を押し付けてご高説を垂れるなんてさ真貴らしくなく俗っぽくてガッカリしたよ。
というか他人に権利を授けられる人間なんて存在しないと思わないかい?権利ってさ歴史のなかで虐げられてきたピラミッドの最下層が叫ぶ理由を欲したから生まれた言葉だ、ただの後付けだよ。あっつまり真貴は今、権利を主張する最下層か!アハハハ!」

臨也は楽しそうに手で三角形を作っている。それに俺はニヤッと笑う。

「権利なんて最初から無いんだ、強いて言えば権利という言葉が生まれたその時に権利は生まれた」

「87点かな。まぁ理論なんてものは後付が大半だ」

俺の言葉に臨也笑う。
だが俺は分かっているのだ。

「それでお前は人を愛したことはあるのか?」

臨也は笑う。
ぶれなかった俺に笑う。
だが奴を最高に笑わせるのは、俺の次の言葉だと俺は知っている。
伊達に中学からの付き合いではない。

「お前は俺に人を愛したことが無いくせにって言ったな」

俺が続ける言葉が予測できるからだろう、奴の顔に張り付いている笑みがブレル。
それぐらい分かる程には側にいる。


「俺はお前を愛してる」


そして臨也は表情を消した。


*****


してる、愛してる、愛してる、好きで好きで堪らない。その瞳も髪も声も全部が愛おしくて、その深い闇すら俺を捕らえて放さない。愛してる、愛してる。臨也、臨也、臨也、愛してる、愛してる。お前が俺という個人に興味が無くても好きで、臨也、好きで、愛してて、愛してて、堪らない。堪らない。


臨也

愛してる


二十四年前、俺はこの狂った世界に生まれた。
俺は二次元でしか知らない、この世界に飛ばされたのだ。
始めは訳が分からなかった。
28歳で癌で死んだ俺。最後はモルヒネを打ってたから幻覚が凄くて、自分でも自分が怖かった。だって蠅が病室をブンブン飛んでたりする、笑えねぇよ。
でもそれは幻覚だ。
病院の門から、黒い影の人間がひたひたと病院に向かって歩いてくるのも見えたりした。
真っ赤な夕焼けに染まりながら真っ黒なその影はどこまでも黒くて恐ろしかったのを覚えている。
だが俺は死んだ。
苦しくて、枕元に父さんとか母さんとか来てた。
苦しくて目を閉じて、スッと力が抜けた。

だが世界は終わらなかった。

何故か知らない間に俺は俺という意識のままに赤子になっていた。

俺の非日常はこうして始まったのだ。




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