眠る君に秘密の愛を

海が荒々しく、ザザンッと波打っていた。
潮騒の音をBGMにしながら、新年を夜通し祝おう!歌おう!飲もう!ということで
白ヒゲ海賊団はてんやわんやの大騒ぎだった。
白ひげ傘下の海賊達も集まり、もう収拾がつかないぐらいに人が多く、
次々と肉や料理や酒が運ばれてきて、甲板も食堂も熱気に包まれている。

そんな中で酔っ払いは始末に終えないというのは、世の常で。
「いけいけっ」
「若いなー!いけー!面白い!」
周囲の酔っ払いどもに唆された、傘下の海賊団の船員一人が餌食になり。
「あの俺っシンキさんのこと、ずっと憧れてましたっ!!」
そう俺に告白してきた・・・げんなりと見詰める。
俺にどうしろと?
周囲のラクヨウやフォッサが面白そうにこっち見てる、こっち見んな。
この酔っ払いがッ!!
「あーサンキュ」
それ以外どう答えようもない。
「はいっ!!」
嬉しそうに去る青年の背中を、周囲の酔っ払いが群がって背中を叩いて健闘を讃えてる。
何がしたいんだ。


俺はビスタを剣の師匠にしている。
白ひげ海賊団「黒剣のシンキ」と言えば「言い値の懸賞金」がかけられる大物だ。
だが俺本人はごく普通の人間な訳で、一人歩きした俺の名前に敵も味方も勝手な『イメージ』を作って困ってる。
俺自身は性的にバイだから、男に好意を示されて嫌悪など感じないが。
好きな奴がいるから、変にそいつに勘違いされたくない。
奴はノーマルだし、どうこうしようとは思わない、家族だしな。
「うぉお!また告白されたのかよ!スゲーなシンキ!」
けど・・・背後から声をかけてくる、こいつ・・・エースが。
俺の想い人であるにも関わらず、こういった反応をするから、俺はその度に溜息を殺す。
「まぁな」
それだけ答えて、手に持っていたグラスの酒を飲み干す。
カッと酒が咽喉を焼いた。
家族として大事にしてる想い人に、こうやって面白そうに騒がれるのは少し辛い。
「なぁシンキって男もいけるのか?」
「あぁ」
「ふーん」
面白そうに見ないで欲しい。
お前だけにはして欲しくない、しんどい。
「じゃあちょっと試しにキスしてみようぜ」
「はぁ?」
ふざけるな、お前はそんな軽い奴じゃない。
俺にとってお前がどれだけ大切か知ってるくせに。
大切な家族、弟、そんな一時の欲望に任せられるほど弱い感情じゃないんだよ。
「俺、シンキならしたい」
「だからって何で」
けれど周囲の酔っ払いは全然、俺に味方しなかった。
「良いじゃねぇーか、シンキ!してやれよ!」
「そうだータラシ男ー!」
なんだとこのっ!!
「糞野郎っ!!!」
ブワアアッと覇王色の覇気を出してしまった。
バタバタとこの場に居た連中の半分が倒れ伏す。
ハァハァと息を切らして「あぁもうやっちまった」と椅子にぐったり体を預けた俺に、エースはけれど引かなかった。
椅子に座ってる俺を見下ろすように覗き込んでくる。
「なぁシンキ、嫌じゃなかったらキスしてくれ」
真剣な漆黒の瞳に飲まれそうだと思った、夜の海のようなエースの瞳に箍が外れる。
「くそっ!!」
ガッとエースの首飾りを引き寄せて、腰を抱いて俺は口付けた。
仲間が倒れ伏す中で、真剣に舌を絡ませて口付ける俺たちの姿は、どこか滑稽に思えた。


やっと進展かよい。
マルコは柱の影でキスしてる二人を見て、思った。
「おっあの二人やっとか」
サッチがマルコの肩に凭れて、声をかける。
「互いに好きなくせになぁ」
その言葉にマルコは懸命にも返事は返さなかった。
二人以外は二人が好き合ってると気付いているのに全く進展しない。
だから周りの方がヤキモキして、エースの誕生日までに何とか進展させようと画策したのだ。
エースにシンキは男でもイケると教えたり、まぁ色々だ。
今日やっとのキス、しかも酒の席・・・仕様が無い弟達だとマルコは溜息を零したのだった。


それから一時間ほど経った頃には、起きている人間はごくごく僅かだった。
あれから何故か酒を浴びるように飲んでエースが潰れてしまって。
俺は周りにせっつかれて、エースをその腕に抱えて部屋に運んでやる。

エースの部屋に入ると、弟とオヤジの手配書が張られたり、食事の食べ歩きの本があったり雑多な感じだ。
奥にある寝台にそっと降ろす。
幸せそうにくーっと寝てるエースの前髪をかきあげてやる。
さらさらと指に柔らかい感触をシンキは楽しんだ。

ボーン

とどこかで新年を告げる鐘の音が響く。
それを聞きながら、あぁ今日はエースの誕生日かと感慨深く眠りに落ちる家族の頭を撫で続ける。
今、この瞬間しか言えないと思った。

耳元に、そっと言葉をふきこむ・・・

Happy birthday・・・エース、愛してる。

そして俺は立ち上がって、部屋を後にした。
エースの耳も顔も真っ赤に染まったことに気付かぬまま。

眠ってるお前にしか囁けない臆病な俺だった。


そして月日は流れ、マリンフォード後も・・・俺は新年にはエースの眠る場所へ来る。
花に抱かれ眠るエースに何度も、何度も、繰り返し、繰り返し、告げるこの想いは、最後の最期まで眠っているお前にしか告げることが出来ない。

愛してる

馬鹿な俺だった。

『眠る君に秘密の愛を』

END



◆後書◆
これ素敵な企画(誕生日夢)に参加した時のものです、当時とても嬉しかったです。
エースの誕生日に間に合って良かった。
そして未来は続いていく。
そんな切ない余韻を感じていただければ嬉しいです。
少しでも楽しんで貰えます様に。
ではでは失礼します。
企画跡
ハピバ






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