闇の総大将

本家の庭で妖気が一気に高まるのを常世は唇を噛む想いで感じていた・・・
黒影と白亜が争っているのが手に取るように分かる・・・

そしてその原因は己であることも・・・

「つっ・・・」

止めなければいけない・・・二人が争うことは他の百鬼夜行の進行を招く・・・
数刻後には、きっと全国の百鬼夜行に京の抗争が伝わってしまう・・・

それほど京は妖にとっては特別な場所なのだ・・・常時、密偵が出ている・・・

だが二人と顔を合わせれば、虜の毒に捕われた自分がどうなるのか・・・分からなかった。

怖くないと言ったら、嘘になるだろう・・・
けれど・・・俺はするべきことをするだけだ。

「なぁ、鯉伴・・・・・」

名前を呼ぶだけで心が暖かくなる、想い人・・・・・
もし、もしも・・・たった一度だけでも逢えたら・・・きっと俺は笑って死ねる・・・

瞳を閉じれば思い出す端正な面影・・・低い声。
心地良かった、過ごした二人の時間・・・

あぁ俺は俺らしく生きようじゃあねぇか・・・きっと鯉伴は笑ってくれる。

「百鬼夜行の道行きを導こうじゃあねぇか・・・」

京の闇が動き出す・・・百鬼夜行の主が・・・ゆっくりと、その部屋の襖を開けた・・・
途端に常世を艶麗に照らすのは天満月・・・

いい夜だ



其処には妖気が渦巻いていた・・・
空中で風と水が衝突し、弾け飛び、再び衝突する・・・

あああああああぁぁぁぁあ!!!!!

絶叫は果たしてどちらのものなのか、
京の百鬼夜行の主の片腕達の殺し合いは、生半可な妖には手が出せない域に達していた。
黒影の天魔組の者は、皆、自分達の当主を見守る。

「白亜ぁぁ!!!!」

黒影が天狗の羽扇で嵐を起こすと、

「黒影ぃぃ!!!!」

白亜はそれを水で完全に受け止めた上で水を剣のような鋭さで操り、黒影は漆黒の翼をいかして避ける。
一進一退、まさに二人は互角だった。

だがそんな中で常世の部屋の襖が開いたことに天魔組の天狗達が気付いた。

「常世様・・・」

名を呼び、息を飲む・・・漆黒の羽織を纏った、艶麗な闇の妖・・・
天満月の光の下に幻想的に浮かび上がる・・・漆黒の瞳・・・漆黒の髪・・・白磁の肌・・・紅の唇・・・

大分、黒影と白亜が争っている空中からは離れているが・・・遠目からでも息を飲むほどの美しさをまとっていた・・・

そして天魔組の天狗が常世を認めた瞬間に、それは起こった・・・・・
強大な闇の妖気が一瞬にして天魔組の全ての天狗・・・白亜と黒影も全て包み込む・・・

その空間は常世の作り出した真の闇だった・・・・・

その中で白亜が黒影を攻撃しようとしても、また黒影が白亜を攻撃しようとしても、それが全て吸収されているのが分かって・・・二人は攻撃をやめる。
飲み込まれた天魔組の天狗とは切り離されているのか・・・同胞である黒影ですら、気配を感じられなかった。

「おい、なに馬鹿げたこと、やってんだ」

そんな漆黒の闇の中で声が聞こえて。
彼等の主が笑みを顔に乗せて、フワリッとその闇の中で浮かんでいた。

「常世様っ」

途端に黒影は動揺して、金色の瞳を揺らめかせる。
いつもたった一人には平静などいられない・・・

「よぉ黒影、数日振りだな・・・逢いたかったぜ。」

そう蟲惑的に笑い、黒影にスッと寄って、その腕を黒影の首に絡めてくる常世の姿にクラクラする。
けれどその自身の欲に黒影は耐えた。

心は決まっている・・・

「離してください常世様・・・白亜と決着をつけさせて下さい。」

それに常世はフッと笑うと、黒影に軽く口付けた。

「馬鹿が、させる訳ねぇだろう・・・俺はてめぇと白亜さえ居れば良い。」

けれどそれは造られた想いです、とは黒影は言えなかった。
言いたくなかった。

その代わりに黒影は常世の腰を強く抱き寄せて激しく唇を交わす・・・
舌も絡めて、歯列をなぞれば、快楽に震える常世様が愛おしいと想う・・・

これが最後・・・最後の口付け・・・

そして充分、常世を味わうと黒影は囁いた。

「貴方は私の虜。私の真の望みを妨げられない・・・さぁ離して下さい。」

けれど常世は妖しく笑った、それにゾクッと寒気が走ったのは黒影の予感だったのかもしれない・・・

「あぁ分かった、黒影。
大切なてめぇの望みは叶えるぜ・・・だが俺は白亜もてめぇも無くしはしねぇ・・・
だからてめぇら以外・・・・・全員、殺してやるよ。」

それは闇の獣が解き放たれるということ・・・

黒影は常世の不釣合いの言葉に一瞬思考が飛んだ・・・
それは白亜も同様で・・・呆然としている・・・

「えっ」

なぜ目の前の愛しい人は酷く妖艶に笑っているのだろう・・・・・

「殺してやる、黒影てめぇに余計なことを吹き込む奴等全員。
そうしたら黒影は白亜と殺し合うなんてことは考えねぇ」

スルッと黒影の背に回される腕は誰のもの・・・
殺戮を嬉々として語る・・・この声は誰のもの・・・

「手始めにこいつ等だ」

そして一部の闇が急速に集束したかと思うと、そこから凄絶な絶叫が響いた・・・

がああああああぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!

それはさっきまで共に居た仲間達の声だと気付き黒影は息を飲む。

「つっっ!!!!!!」

すべては一瞬だった・・・・・

景色が切り替わる・・・本家の庭に・・・
其処は紅の惨劇・・・
地に数百もの天狗の死体が圧倒的な力でひしゃげたように・・・残酷に殺された死体が庭を覆っていたのである。

血と臭気と・・・おびただしい死体の中で息をしているのは黒影と白亜と美しい主のみ・・・
そしてその闇の獣は艶然と笑った。

「殺してやる、黒影と白亜を俺から奪おうとするもの全て・・・闇に堕としてやる・・・」

全ての毒と、哀しみと、愛情と、命と死・・・・・
崩壊の音が京に響いた・・・・・

虜の毒とは即ち、絶対の忠誠・・・・・全てのものを投げ打って主を守ろうとする毒・・・・・

京に暗雲が迫っていた・・・もう誰も止めることが出来ない・・・




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