大切な弟へ
『大切な弟へ』


エースが寝ようと思った時だった。

ノックの音が部屋に響いた。

「俺だサッチだ、ちょっと良いか?」




「サッチ?どうした?」

こんな時間になってサッチが尋ねて来るなんて珍しい。

サッチはニッコリとこっちまで笑顔が広がる笑みを顔一杯に浮かべた。そして、

「俺さ、エースのこと本当に大切な弟だと想ってるぜ」

と突然語られ、エースは少し呆気にとられる。

「おぅ有難う」

そう言うとサッチは今度は指を折り曲げながら、

「大喰らいで、食事中に寝て、あとスプーンの持ち方、俺はあれはどうかと思う。
それになぁ〜
最初は毛を逆立てた猫みたいで、どう接したら良いか迷って、この俺様が大分手を焼いたし。
けっこう小さい怪我含めてもするし、心配だよ。あと隊長としての仕事もっと手馴れたら良いよなぁ」

エースはそこで耐え切れずに制止した、

「おいっサッチッ!なんだよ」

不機嫌にそうにして聞き返す、とサッチはまたニカッと笑った。


「いや、俺はそんぐらいお前を気にかけてたぜって話だ。


大切な弟だからな」


その笑顔を忘れられなかった。


そして翌日、モビーディックにもたらされたのは、サッチの死だった・・・クルーが見つけてマルコが駆けつけた時には、もう手遅れだった。

エースは、そのサッチの姿を見ても実感が湧かなかった。

昨夜、俺の部屋で話したのに、否、サッチが最後に俺に会いに来たのか?

声が上手く出てくれない。

涙が溢れる・・・

「何でだよ、何で・・・」

立ち尽くして、滂沱の涙で泣いても…


昨日の満開の笑顔。

『大切な弟だからな。』

暖かな言葉。

心が折れそうだ・・・


「あああああぁぁぁっっ!!!」


声が聴こえた気がした・・・

『エース!』

暖かく呼ばれる…

大切そうに呼ばれる…俺の名前…

振り返れば…いつも優しかった…

消えないで…

俺が出来ることがあれば何でもするのに…

でも分かってる…

最後の最期に挨拶に来たのだろうことを…
知っていた…


「ありがとう!!
サッチの存在全てに感謝してる!!」


この想いを…
何て言えばいいのだろう…
存在に感謝してる…そう深く想っている…


サッチが俺にくれたモノ以上をサッチに返せなかったのが悔しくて…

『サッチ』に会えないのが辛い…







エース、モビーに一緒に乗って色んな思い出が出来たな。

親父がいて、大切な兄弟達がいて、俺『幸せ』だ。

幸せだったんだ、自信があるんだ。

…何もなくしていない…

…この胸に全て大切なモノは全て在る。

俺の『死』が、どうかお前に優しく受け入られますように。

まっお前泣き虫だから泣くだろ?
絶対に泣くだろ?

エース…俺の大切な弟へ。
お前が幸福であることを…お節介な兄貴より。

END



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