(名前変換はありません)

「ゆーじろー!」
「っ?!……やーかよ。驚かせんな」
「いやー後ろ姿見えたからさ、つい。えへへ」
「えへへ、じゃないねーよ。ったく」

裕次郎はそう言って、少しずり落ちたテニスバッグを肩にかけ直す。後ろから大声で名前呼びながら走ってきただけなんだけどなぁ。…まぁ、びっくりはするか、うん。

「部活帰り?」
「おー」
「私もさっき終わったとこ!ねね、どこか寄ってかない?」
「はぁ?……わんとやーで?」
「えー何よ、嫌なの?いいじゃん別にー同じクラスのよしみでさ」
「嫌ってわけじゃないけどよー…」

顔をそむけて、それきり返事をしない。ーーあぁ、もしかして…。

「裕次郎照れてるんでしょ〜?」
「は、はぁっ?!なんでそうなるさー?!」
「だって女テニの子が裕次郎のこと寄り道に誘っても絶対断られるって言ってたから」
「それだけでなんで照れ」
「赤くなりながら必死に断るって」
「……」
「……」
「……み、見間違いやろー…?」
「…声裏返ってますけど」
「っそれはたまたまやっしー!」

もうすでに顔が赤い。裕次郎ってばテニス部だし顔もまぁかっこいいし良い奴だからそこそこモテるのに意外にもこんな風に照れ屋だからなぁ…。

「何だよ、そのなまあたたかい目は!」
「別にー?」

まぁ、そこがモテポイントでもあるんだけどね。

「でも裕次郎モテるのにもったいないなぁ」
「はー?急に話変えるなよ」
「あれ?モテるって言われるのは照れないんだ?」
「……まぁ、ちょっとは照れるけどよ」
「ふふふ」
「な、何さ」
「裕次郎のそういう素直なとこもモテポイントだなぁと思って!」
「モテポイントって…」

呆れ顔でため息をつくと、くるりと道を右に曲がる。

「え、ちょ、裕次郎の家ってそっちだっけ?」
「ーー寄り道行くんじゃねーのかよ?」
「え?!…行く行く!すっごい行く!!」
「……ハハッ」

すっごい行くってどんな日本語だよ、なんて笑った顔に少しきゅんとしてしまう。えー!寄り道付き合ってくれるんだ!あの照れ屋さんな裕次郎が!!
あまりの嬉しさに思わずにやけてしまう。

「で、どこ行きたいんだ?」
「え!どこでも!まさかほんとに寄り道してくれるとは思ってなくて考えてなかったんだけど…」

駅周辺の賑わってる一帯を並んで歩きながら質問に応える。どうしよっかなぁ、やっぱりここは無難にファーストフードのお店?でもせっかく裕次郎が一緒に寄り道してくれてるからーー…。

「あ!!」
「ん?決まったか?ちなみに俺はどこでも…」
「じゃあじゃあプリクラ撮りに行こう!」
「……わんとやーでか?!」
「…裕次郎、その発言今日2回目ですが」
「だ、だってプリクラって…!」

隠しているつもりだろうけど、みるみるうちに赤くなっていく頬。おーおー、そこら辺の女の子より可愛い反応。

「……やっぱり無理か。裕次郎には恥ずかしすぎたよね、うん、諦めるよ」
「え、お、おー…?」
「凛くんなら二つ返事でOKしてくれると思うんだけどなぁ。ま、あの裕次郎だからなぁ…」

凛くんのことはそんなに知らないけど、なんとなくのイメージで適当に喋ってみる。
ちらり。斜め上にある顔を伺うと複雑そうな表情をしている。安心したような、でもどこか悔しそうなやりきれなさそうな…。

「っ、撮れるさぁ!プリクラくらいっ」
「え」
「ほらっ行くばーよ!」

決心した顔でゲームセンターの中に入っていき、プリ機へとずんずん歩みを進める。その後ろ姿に思わず笑ってしまった。でもやっぱり裕次郎とプリが撮れるのが嬉しくて、るんるんした気分で私もプリ機に入っていく。中に入るとすでに財布を開いてお金を投入しているところだった。

「あ、待って待って」
「ん?何だよ」
「お金。半分出すよ?一緒に撮るんだし」
「いや、いいさーこれくらい。こういうのは男が出すもんやんにー」
「そ、そう?ならお言葉に甘えて……ありがとう!」
「おー」

こういうところはさらっと言って、全く照れがない。照れまくって可愛いやつめ…と思った次の瞬間にはこういう風にさらっとかっこいいことをやってのけてしまうのが裕次郎の最大の魅力なんだろうなぁ。

「うんうん」
「? 何一人で頷いてるばぁ?」
「こっちの話!…てか、プリ撮るの久しぶりかもっ」
「そーいや俺もかなり久しぶりだな。最後に撮ったのは…」

んー、いつだぁ?裕次郎も前に撮ったのはいつか思い出せないでいるみたい。ちなみに私も思い出せない。たぶん同じ部活の子達と撮ったのが最後だと思うんだけど…
画面の選択ボタンをぽちぽちしながら考えるけど、やっぱり分からない。

「私思い出せないやー。…ああでも男の子と二人で撮るのは初めてかも?」
「女子とは俺も初めてやっしー」
「あ、そうなんだ?じゃあ初めて同士だね〜」
「そうだなー。……」
「……」

……ちょっと待って待って待って!?ミスった!今の発言全体的にミスった!!えーうそ!すごい恥ずかしい!こんな、二人きりの空間で、しかも今から写真撮るって時にする話じゃなかった!!
かあぁぁっと顔が熱くなってきて、前の画面を見なくても顔が赤く染まっているのが分かる。えぇっやばい!絶対顔赤い!この状態で写真撮られちゃうの?!
人生最大レベルに後悔している私を待つことなく、プリ機はカウントダウンを始めてしまう。

『3、2、』
「わ!ちょ、ま!」
『1』

パシャッ

無機質な音が静かな空間に響く。おそるおそる画面を確認すると、赤くなって驚いた顔で正面に手を伸ばす私と、その隣で口を手で押さえながら私が居る方とは逆の方を向いている裕次郎が写っていた。

「!」

隣を振り返ると、写真の格好のまま まだそっぽを向いている。うそでしょ!私だけ赤い顔して写っちゃてるんですけど!!てかその手があったかー!

「ちょっと裕次郎だけずるいんだけど!」
「はあっ?!何がよ!」
「顔ほとんど写ってないじゃん!私なんかめちゃくちゃ写ってるのに!」
「知らんし!」
「もうっほら手どけてよ!」
「うわっやめろ!」
「せっかくの写真なんだから顔写しなよっ…!」

力づくで裕次郎の顔から手を引き離そうと手を引っ張る。でもさすがは男の子で、私の力じゃ全然引き剥がせない。
裕次郎へと掴みかかっているうちにも機械はパシャリと写真を撮っていく。こんな、こんなはずじゃなかったのに!

「あんまり引っ張るなって!」
「じゃあ手どけてよ!」
「わんはわんのタイミングで外すからっ」
「わんのタイミングって何!?わんわんってお前は犬か!てかそんなうかうかしてたら全部撮り終わっちゃうってのー!、わぁっ!?」
「っ!?」

パシャッ…

「わ、わりぃ…大丈夫か?って…!」
「っ…うん、大丈夫ー……っ?!」

後ろの壁に軽く背中を打ち付けてしまったものの、そんなに痛くもない。心配をかけないようにと返事をしながら目を開くと、すぐ目の前に裕次郎の驚いた顔があった。ハッと息をのんで、心臓が止まるんじゃないかってくらい驚く。

「悪い!」

すごい勢いで壁から手を、私から身体を離す裕次郎。心臓はバクバクいってて、すごくうるさくて。い、今のって、事故だったけどさ、もしかして、もしかして、巷で噂の壁ドンってやつ……?

『最後の写真だよー!』
「えっ」
「! もう最後か…」

うそうそ待って!?せっかく裕次郎と初めて撮るプリなのに!ほぼもみ合ってる写真しか撮れてない!

「っ裕次郎お願い!」
「わあ?!いきなり大きい声出すなっ」
「最後はちゃんと撮りたい!」

せっかく裕次郎と初めて撮るんだから!目をぎゅっと瞑って、顔の前で手を合わせて、そう懇願する。お願いお願い!もうこんな機会絶対巡り会えないもん!

「……はぁ」
「……」
「ほら、早く目開けるさぁ」

ぐいっと肩を引っ張られた。驚いて目を開けると、右隣には真剣な顔で前を見ている裕次郎。え、こんな表情もするの…?力強く引き寄せられた左肩が熱い、気がする。

「どこ見てるんだよ。前向け、前」
「えっ、あ、そっか!」
『3、2、』

ドキドキと高鳴る胸を右手で押さえながら、左手でピースをする。密着具合が恥ずかしすぎて今の裕次郎の顔が見れないけど、笑ってくれてたらいいなぁ。




ーー…

「あははははっ」
「やー、笑いすぎやっしー……ぶふっ」
「っそういう、裕次郎も笑ってんじゃんっ……あはは!」

ゲームセンターから出た後もあまりの写真のひどさに思い出し笑いが止まらない。結局まともに撮れていたのは最後の1枚だけで、その他はほとんどもみくちゃになっているひどい写真ばかりだった。でもせっかくだからとその写真も印刷した。もちろん、最後の写真もだけど。

「あー、笑ったー!」
「ほんと。笑い死ぬかと思ったさー」
「ねー。……ふふ」
「まだ笑ってるばー?」
「んー、さっきのとは違う笑いだけどね!…最後の写真、ちゃんと撮ってくれてありがとねっ」

最後の写真を眺めながら、思わず口元が緩む。そこには緊張しながらも嬉しそうに笑う私と、そんな私の肩に手を回しながらいつもより少し優しげに笑っている裕次郎が写っている。ちゃんと撮りたいとは言ったけど、まさかまさかこんな風にカップルみたいな感じにして撮ってくれるとは思わなくて。何事も頼んでみるもんだなぁ、なんて思った。これ、絶対大切にしよう!
ーーあ、でも裕次郎は別に深い意味でやったんじゃない、よね…?うーん、そう考えるとこのポーズも手放しで喜んでいいのか…他の子からもお願いされたらこんな風にして撮るのかな。なんか裕次郎って押しに弱いし……うん、ありえそう。
さっきまであんなに嬉しかったのに、考え過ぎて暗い気持ちになってきた。…こんなんじゃいけない!てか私ただのクラスメイトだし!彼女でも何でもないしね!一人で小さく首を振っていると、裕次郎の声が聞こえた。

「……だろ」
「え?」
「っ、だから、また撮りに来ればいいだろ!…やーとなら、また撮ってやってもいいさー」
「! う、うん!また撮ろうねっ」
「…おう」

かっこよく返事をしてから、やっぱり照れてはにかんでしまう裕次郎に、私の胸もやっぱりきゅんとしてしまったのでした。



照れ屋さんな彼だけど
(だからこそ、"やーとなら"って言葉に)
(自惚れてもいいですか?)

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大切なお友達の蒼ちゃんから!
蒼ちゃんありがとう!!!


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