ハロウィン / 仁王



「トリックオアトリート!」


お昼終わりの外階段。お弁当を片付けた私は、元気よく発声する。だって今日は、待ちに待ったハロウィンだから!


「……」
「……ん?と、トリックオアトリート!」
「……」

2回目の合言葉を告げても、口元に笑みを浮かべながら私を見ているだけの雅治。


「……あれ?」


雅治のカバンの中にお菓子があるのは見えている。それに昨日丸井くんから、お菓子くれなきゃイタズラするって脅されたって言ってたはずだし。

「雅治?」
「ん?」
「いや、ん?じゃなくて!お菓子くれなきゃイタズラしちゃうよーって言ってるんだけど」
「うん」
「へ?」
「ほーら、思う存分イタズラしんしゃい」

雅治はそう言って私と向かい合うと、楽しそうに手を広げる。まるでそれは、何処からでも掛かってこいと言わんばかりで。
正直、お菓子を持ってるはずの雅治がこうして無いふりをする意味がわからない。イタズラされたいの?…え、そんな人、いる?

「し、しちゃうよ?イタズラしちゃうよ?」
「おー怖い怖い、お手柔らかに頼むぜよ」
「……」

ひ、酷い!雅治完っ全に私のこと舐めてる!にやにやと未だ私を見つめる雅治を、キッと睨みつける。


……とはいえ、だ。イタズラって一体、何をすれば良いんだろう。

「あー、あのさ、ちょっと質問なんだけど」
「おん」
「…雅治ってこちょこちょ、効く?」

まさかのイタズラOK宣言に咄嗟に考えたものの、いきなり過ぎて全然浮かばないというのが本音。そこで私が思いついたイタズラは、何も使わずにその場ですぐに出来る、あれ。

「ああ、うーん…」
「……」
「…試してみるか?」

そう言って両手を上げる雅治の、何とも無防備な脇腹へと私は手を伸ばす。私なら、触れられた瞬間に飛び上がるけど…。でも雅治が擽ったがってる所も見てみたいなあ、なんて思ったりして。ちょんと指先が触れて、一瞬雅治の方を見る。でも、一切顔色を変えない。それを見て私は思いっきり指を動かす。

しかし次の瞬間、あがっていたはず雅治の腕が、私のことを抱き締めたのだ!

「わあぁ!」
「ざーんねん、効かんぜよ」
「やっ、そ、そこじゃ!そこじゃなくて!」
「じゃあ今度はこっちから」


随分と近くにある、雅治の楽しそうな顔。


「Trick or Treat?」


首を傾げる雅治がかっこよくて、思わず見とれてしまう。……でも、ふと思う。


「え…」


やばい。これはやばい。


「……」


そう。私はもう、お菓子を持っていなかった。持ってきたお菓子は既に全て配ってしまったし、それにまさか、雅治から言われるとは予想していなかった。

「あのー、えーっと…」
「ん?」
「お、お菓子……無いです」
「…ほう」
「……」
「俺にはお菓子を要求して、当のなおこは俺の分は持ってないと」
「……スミマセン」


雅治の腕の中で頭を下げる。


「それなら仕方無い。本当はやりたくもないけど決まりじゃき、イタズラするしか無いのう」
「ええ!」
「それになおこは脇が効くと見た」
「なっ」
「自分が効かなかったら、イタズラに選ばんじゃろ?」
「……」

いやいや名探偵雅治さん、どんだけやる気満々なんですか?緩んだ片腕と、嬉しそうな雅治が今は怖い。

とりあえず、せめてもの抵抗として両手を脇に挟んで腕を固く閉じる。それから、雅治の目から逃げるように目も閉じて。来るとわかっているこちょこちょ程、嫌なものはないのだ。来るなら来い!…でも、出来れば来ないで下さい!内心めちゃめちゃ怯える、私の肩を抱く雅治の手に力が入った。……く、来る!

ちゅっ。


「……え?」


不意に頬に感じた柔らかい感触に、目を開ける。目を開いた私を見てくすくすと笑った雅治は、本来は擽るはずだったであろう手で、私の頭を撫でた。


「そんな可愛い顔されたら、いたずら出来んぜよ」




少し早めのハロウィンでした。この後ちゃんとカバンに入っているお菓子を貰うと思われます。(笑)
仁王のラブラブしたのを書きたかったので楽しかったです、あと一個くらいハロウィン書きたいなあ。(1026)

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