ドライヤー / 跡部



跡部景吾と同棲を始めて驚いたことは沢山あるけど、一人で髪を乾かすのもその一つだった。風が止んだのを見たら思わず、前から思ってたけど景吾くんって自分で髪乾かせるんだよねぇ、って言ってしまい、そうしたら「アーン?」といつもの返し。

「あ、いや、ほら、景吾くんのことだからメイドさんが乾かしてくれてそうで」
「まあ基本は、家では自分で乾かさねえがな。ちなみに乾かすのもメイドじゃなくて執事だ」
「ふーん、そうなんだ」
「テニスの合宿なんかに行けば大抵の身の回りのことは出来るようになる」
「あ〜ま、それもそっか」

でも、家では誰かに乾かしてもらってるんだ。それなのに今では、毎日自分でやってる。これってどうなんだろう。鏡台の前に座る彼の髪に触れる。「あれ、ここまだ濡れてるよ」指先に感じた湿気を伝えて、一度置かれたドライヤーを代わりに手に取った。

「……いーい?」
「ああ」

鏡に映る本人に尋ねると、頷きが返ってきた。ブォォンという音と共に風が吹き始めるも、いつものようにターボを使うとサラサラな彼の髪に傷がついてしまいそうだ。それに、今回はもうほぼ乾いてるし。段階をひとつ下げて、彼の頭を撫でるように、髪を梳くようにしてドライヤーをあてる。……つむじ、ある。いや、それは当たり前なんだけど。でも押されたことないんだろうなあ、とか、そんなことを考えながら。
それからそう時間も掛からずに乾いたように思えて、スイッチを切って鏡を見る。すると鏡越しに、瞼を開けた彼と目が合った。

「乾いたよ」
「……ありがとう」

くるっとこちらを向き、私を見上げながら答えてくれる彼がなんだか愛おしくて。どういたしまして、と返事の後にギュッと頭に抱きつく。でも、すぐに離れる。そしたらキョトンとしていた彼がいたのだが、私が先にソファに向かうとそのまま隣りに腰掛けた。

「今日もお疲れ様でした……わっ」

かと思うと、いきなり抱き締められた。お風呂でぽかぽかの私の身体と、同じく温まっているであろう彼の身体はパジャマ越しにもそれが伝わる。ギュッとして、緩んだ所に顔を上げるとそのままキスが降る。二度、三度とキスをされてから瞼を開ければ、私を見つめる彼の目がとろんとしている。

「……眠いの?」
「……」

再び、返事とばかりに抱き締められ、今度は髪にキス。…………ああ、なるほど。

「人に髪を触ってもらうの、気持ちいいもんね」
「……」

やっぱり何も言わない彼だけれど、これは絶対そうに違いない。疲れてたら眠くなっちゃうのもわかる。
でもこんなにも甘えんぼうになっちゃうなら、時々髪を乾かしてあげるようにしよう。
いつもより随分と早く暗くなった寝室内、私は心の中でこっそりと誓った。

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