想い焦がれた言葉 / 仁王



「雅治って、もしかして男の子が好きなの?」

隣りの家に引越してきた雅治とは、母親同士が仲良くなったお陰でいつの間にか兄妹の様な関係に。普段から、どちらからともなくお互いの部屋を行き来していた。
雅治の部屋で二人で食べる、という名目で持ってきたお菓子を一人で食べながらふと、私は思っていた疑問を口に出した。


「は?」


真隣から聞こえてきた疑問を呈する声に、私はテレビから彼へと視線を移す。
彼の部屋にあるソファは、一人部屋には少し大きい様に思える。しかしそのくせ雅治は私のすぐ隣りに腰掛けてくる。だから横を見たと言うよりは、少しだけ上を向いて、私は彼の顔を視認した。


「……や、私は、雅治が男の子の事好きでも大丈夫だよ!」


怪訝そうな雅治と目が合って、私は慌てて言葉を付け足す。


「ほら、だって雅治って、女の子から結構告白されてるらしいけど誰とも付き合わないじゃん。ってかそもそも女の子と話す事自体あんまり見た時無いし、でも男子とは、テニス部の子達とは普通に話してるの見るから」


私の話を聞いても、変わる様子の無い彼の表情。私はそんな彼の顔を両手で包み、「大丈夫だよ、私、雅治が男の子を好きでも変わらない自信あるから」と何度も頷いて最後のダメ押しをした。
じっと私の顔を見ていた雅治がフッと笑いを零し、右頬に添えられている私の手に自分の手を重ねた。

テニスをしているお陰で、綺麗な手の甲からは想像出来ないくらいゴツゴツした雅治の手。大きな彼の手は優しく私の手を取ると、そのまま手首に口付けた。

突然の行動に、私は思わず息を飲む。


「本当に、そんな事を思っとるんか」


雅治の吐息を手首に感じて、背筋がゾクゾクと震える感覚を覚えた。

私はずっと、彼の事が好きだった。何処にいても目を引く容姿なのに、笑うと目尻に寄る皺が可愛くて。意味のわからない事ばかり言って困らせてくるくせに、私の頭を撫でる手は何時も優しくて。
彼と仲良くなって彼を好きにならない道は、きっと私には無かった。今ならはっきりそう言えるくらい、気付いたら雅治の事が好きだった。

……だけど私なんて、幼馴染という立場でも無い限りは話す事すら無かったであろう存在だ。
早く彼女が出来てしまえばいい。私には届かないくらいに美人で頭が良くて、性格のとびきり良い女の子と付き合ってくれればいいのに。彼が好きだと自覚してから、そう願うばかりだった。
何故なら仁王雅治という男が、それが不可能な男の子では無いのは私はよくわかっているから。容姿にせよ性格にせよ、彼に言い寄られて嫌に思う女の子はいないという自信がある。
そしてそれに加え、私自身がその様に思って貰える女の子では無いという自覚があったから。

届かないくせに他人より近い『幼馴染』という距離が、私には辛かった。だったらいっその事早く彼女を作ってくれればいいのに。それなら諦められるのに。
そう、ずっと思っていた。


「え……」


頭が働かないでいる私の口から出たのは、とてもじゃないけど言葉とは表現し難いものだった。
そんな私を見た雅治は、もう一度手首へとキスをした。柔らかい唇の感触とちゅっというリップ音が、一回目よりも鮮明に私の脳へと刺激として伝わる。


「なあ、」


そう呟いて、そのまま私の手に頬擦りする雅治。


「俺が告白を断り続けるのも自分以外の女子と話さんのも、男に興味があるからじゃと本気で思っとるんか?」


見た事もないくらい熱っぽい彼の瞳に見つめられ、心臓が痛いほど高鳴る。


「……そうじゃないなら、どうして」


息が止まりそうだ。そう思いながらやっとの思いで言葉を吐き出す。
私の返事を聞いた雅治の口が少しだけ開く。

しかしその次の瞬間、私は彼の腕の中にいた。


「……」


押し付けられた雅治の胸から聴こえるのは、激しく鼓動を刻む私の心臓と同じくらいに早い鼓動音。
信じられなかった。雅治の心臓がこんな音を立てるなんて。もしかしたら今聴こえているのは、私の心臓の音なんじゃないか。そう間違いそうになってしまう程に早く大きい鼓動音が私の耳を支配した。


「嫌なら嫌って言いんしゃい」


上から声が降ってきて、私は確認しようと顔を上げる。目の前に彼の顔が飛び込んできた。


「言えんかったら、突き飛ばしてくれ」


今までに無いほどに近い距離で彼がそう告げた。
……嫌な訳が、ない。
その意味を込め、首を横に振る。それを見た雅治は、目を少しだけ大きく開いた。背中に回っていた手が私の後頭部へと回る。


「好いとうよ」


想い焦がれた言葉を聞きながら、私は目を閉じた。



幼馴染設定大好き人間のめかこ、プラスアカウントで色んな王子様の色んな幼馴染のプラスを投稿しているのですが、これは普通にSSになったのでこちらにも。(10/17)

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