傘 / 丸井



(死ネタです、シーンは出ませんが、苦手な方はご注意下さい。

梅雨入りが発表されてから随分と時間が経ち、ようやく雨が降ってきて梅雨らしくなってきた今日この頃。雨のせいか肌寒くて、半袖から出た腕を軽くさする。持ってきた傘はパクられたのか、見てみると無くなっていた。

雨が降ってくる空を見上げる。もう、三年が経った。




「えー、傘忘れちゃったの?」


玄関へ向かって歩きながら、そう言って俺を見上げる。「ばかもん!」と真田の真似をしているのかしていないのか、よくわからない言い方で言って1人で笑っている。

「じゃあ今日はブン太と相合傘だね」
「えーお前とかよ」
「し、失礼な!じゃあブン太は雨に濡れて帰れば!」


ふん!そうそっぽを向いて言うのが可愛くて、頭を撫でた。


「ちょっと!セットした髪が!」
「え、してたの?」
「ううん、してない」
「マジでなんなの」

俺の反応を見て、再び可笑しそうにけらけらと笑う。
俺は、男女共に友達が多い方だと自負している。でもやっぱり、こいつと話すのは心地が良くて好きだ。

「だってブン太が酷いこと言うからだもん」
「あ、ちなみに俺はセットしてるぜい」
「雨にずぶ濡れになればいい」
「性格悪」
「まーま、雨も滴るイイ男って言うじゃん?」


「キャー!ブン太くんカッコイー!」。ふざけて拍手までするから、おでこをぺちりと叩いた。


「あいた!」
「俺の事馬鹿にするからですー」


付き合っていると聞かれることは何度もあった。でもそんなことは無くて、本当に、ただ幼馴染なだけ。それでもなんでか、ずっと一緒にいた。弟達も産まれた時から知ってるし、もちろん懐いている。
こいつと初めて会ったのはいつだっけ。一緒に風呂に入るのをやめたのはいつだっけ。手を繋がなくなったのはいつからだっけ。…好きなんだって気づいたのは、なんでだっけ。

小さい頃から一緒にいたこいつとの思い出はありすぎて覚えていないくらい、ある。そしてこれからもずっと一緒で、これからも思い出は増えていくんだ。


「あ、ほらほら!目的地が見えてきましたよー」


耳に手を当てて、俺に言葉を促す。


「相合傘させて」
「……」
「……下さい」
「うむ!よろしい!」

どんよりと淀んだ空のお陰で、校内は随分と暗い。そんな中でもこいつの笑顔は明るかった。

靴箱で別れて、ドアに向かうと傘を片手に佇んでいた。俺に気づくと傘の柄を俺に向けて。受け取った俺は、傘を広げる。
俺達は肩を並べて、歩き出した。


あんなに沢山あった思い出は、三年前から増えていない。そしてもう、これから増えることも、無い。
俺だけが大きくなった。あいつだけがいないこれからが、続いている。1人でも、ずっと続いているんだ。

俺は雨の中、カバンで雨よけをしながら走り出した。


5年ほど前に書いたものです。サイトを再出発させて、誰で中編を書こうか悩んでいた時に読み、ブン太くんが幸せになって欲しいと心から思ったことで生まれたのが『そろそろ愛にしようか』でした。もう、本当に今読んでも悲しいので、是非とも、そろそろ愛にしようかのどれでもいいのでお話を読んで下さい……。(0906)

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