髪 / 仁王 !
(微裏要素あります、苦手な方はお気をつけ下さい!)
仁王くんは、私の髪の匂いが好きらしい。
床に胡座を掻いて座っていた仁王くんは私を見るなり、ボタン外れたブレザーの両ポケットに手を突っ込んで前を広げる。……それは私にとって、言うなれば合図の様なものだった。
私はまるで誘われる様に、彼の胡座の上に腰を下ろした。
「捕まえた」
そう言った仁王くんが、自分のブレザーで私の身体を包み込む。
「はい、捕まりました」
彼の身体にすっぽりと収まり、ダイレクトに彼の体温を感じる。ふわりと鼻を擽る彼の香りに対し、勝手に反応してしまう自分の心臓には見て見ぬ振りをして。
そうして私が彼の言葉に答えながら横を向き切る前に、頬に柔らかい感触を感じた。
純日本人である私と仁王くんだから、挨拶代わりに頬にキスをする習慣はもちろん無い。これはいつの日かしてくる様になった、彼が私にだけする愛情表現だった。
唇が離れたかと思うと、視界に入った仁王くんの口元は既に緩んでいた。そんな彼の表情からは、普段の威圧感やミステリアスな雰囲気はほとんど無い。
その中で少しだけ残るこの違和感。それはきっと、私と彼の関係によるものだろう。
「お前さんは温かいのう」
そう言いながら、私の頭に自分の頬を擦りつけてくる仁王くん。
「そうかなぁ」
お腹に回る彼の腕の力に、思わず身体の奥が熱を持つような感覚になる。私の言葉にん、と頷いた彼は、今度は私の頭にちゅっとキスを落とした。
それから何も言わなくなり、その代わりと言わんばかりに私の後頭部に自分の鼻をグリグリと押し付けられる。
「なーに」
「んーん。おまんの髪の匂い、ほんま好き」
仁王くんの口から好きという言葉を聞いて、それだけでまた、身体の奥が熱くなるのがわかる。
でも、仁王くんはそう言うけど、決してそんな事はないと思う。別に私は、特別にいい香りがするというシャンプーを使ってる訳じゃないし。
何度もそれは言ってるのに、仁王くんは「それでもおまんはええ匂いするき、そこも好きじゃ」と言ってくるのだ。
「な、下向いてくれん?」
「下?」
「うん」
「……んっ」
言われるがままに下を向く。しかし、次の瞬間に項の辺りから感じた柔らかな感触に、私はビクリと肩を揺らした。
「ちょっと仁王く」
「ダメ、まだ上向かんで」
「……」
いきなりの彼の行動に反論しようと声を上げたものの、彼の一声でそれはピタリと止まってしまった。
私は、彼にダメと言われるのがとても弱かった。たとえ反抗した所で次には嫌じゃと言われ、結局は言う事を聞いてしまうのだ。
それから無防備にさらけ出された私の項に、何度も何度もキスを落とす仁王くん。触れては離れてを繰り返す甘い刺激に、堪らなくなった私は彼の腕を掴んだ。
それに反応した彼の右手が、私のお腹を離れた。
「首、気持ちええ?」
「ひゃっ」
そのまま優しく頭を撫でてくれる手とは裏腹に、ぬるりと彼の舌が私の首を這った。可愛え声やのう、と何処か嬉しそうな声が聞こえてくる。
「そんな事ないよ」
そう答えながらも、身体が仁王くんに甘く支配されていくのがわかる。
「……じゃあ、こっちは?」
お腹に回ったままの仁王くんの腕に力が入る。離れない様に、という意味だと言うのが瞬時に理解出来た。
頭を撫でていた彼の右手が目の前に現れ、あっという間にブレザーのボタンを開けられる。
「んっ…」
開かれたブレザーに手を滑り込ませた仁王くんは、ブラウスの上から優しく胸を揉み始めた。既に先程からのキスのせいで火照り始めていた私の身体は、直接でなくても敏感に彼の手に反応してしまう。
「ほら、可愛え」
恥ずかしさで目を閉じた私の耳に、仁王くんが熱の篭った声で囁いた。それにより耳までもが刺激され、再び漏れそうになる声を必死で耐える。
「なあ、なおこ」
「好きじゃ」
そう言って熱く息を漏らした彼が私の耳にキスを落とす。
「本当に好いとうよ」
私に言っているのか、それとも独り言なのか。そう思うくらいに小さくて呟く様な仁王くんの声。でも今の私は、そんな彼の呟きすらも簡単に熱へと変えてしまう。
「はよう俺の事、好きになってくれ」
心底愛おしいとでも言うようなキスが、今度は首筋に落とされる。キツく吸い上げられたそこはにはまた、私には見えない彼の証が付けられるのだろう。
もし、私も好きだと告げれば、彼はどうなるだろうか。
変わってしまう?
私の事は好きじゃなくなる?
「……」
臆病者の私は、今日も彼の想いへ答える事はない。
そう。自分の気持ちを伝えた所で、彼からの愛が更に深まるなんて事は、この時の私にはまだわからなかったのだ−−−。
少し前にテニプリプラスにて書いたものです。色々あって書く事になり書いたものですが、恥ずかしくて死にそうです。ひえぇ…。(1106)