ヒヨコのパンツ / 忍足謙



「ねーね、謙也」

お互いの部活が終わり、今日は約束していた通りに謙也の家に遊びにきた。

「ん?」
「これね、謙也にプレゼント!」

そう言って私が差し出した袋を受け取り、「プレゼント?」と首を捻る謙也。それもそのはず。今日は別に謙也の誕生日な訳でも無ければ、記念日でも無いのだ。

「いいから、開けてみて!」

既ににやにやが止まらない私の顔を見て、尚更不思議そうに「なんやねん」と怪訝そうな顔で謙也は呟く。それでも貰ったものはと、テープで止められた袋を開けて。

「……パンツ?」
「そう!可愛くない?」

袋から出てきたパンツを手に取り、私の顔を見てくる謙也は、ほんまに意味わからへんねんけどと言わずとも私に伝えてくる。

「まあ、うん、可愛ええけど。でもなんでヒヨコやねん。しかもめちゃくちゃおるし」
「え?だって謙也と似てるじゃん」
「……は?」

誕生日でも記念日でも無いのにも関わらず、私が謙也にプレゼントしたもの。それは、可愛いヒヨコが沢山ついたボクサーパンツだったのだ!
しかし、私の言葉に一瞬にして愕然とした表情になる謙也。

「え、ちょ待って、どこ…俺とコイツらはどこが似とるん?」
「それはほら、髪の毛の色とか感じとか、後謙也の襟足の所がヒヨコの尻尾みたいでしょ?」
「……」
「謙也がいっぱいいる!って思って、思わず買っちゃったの」

一昨日買ってから一刻も早く謙也に渡したくて言いたくて堪らなかった私は、この時点でもう大満足である。満足感で綻ぶ私の顔と、手にあるヒヨコ達を交互に見つめる謙也。

「…いやいや、完全に馬鹿にしとるやろ」
「し、してない!ほらほら、謙也も実際に見てみたらわかるよ」

そう言って私は謙也に鏡を渡す。そして謙也はと言うと、受け取った鏡を片手に首を動かしたり鏡を動かしたり。
……しかしながら、襟足というのは中々見えづらいものだ。「アカン全然わからへん。なおこ写真撮ってくれへん?」、納得のいかない様子の謙也に言われ、私は携帯を持って後ろに立つ。

「……」

無防備に頭を下に向けて、謙也は襟足を強調して見せる。ヒヨコの尻尾なる彼の襟足と、こうやってじっくり見ることはあまりなかった彼のうなじ。……どうしよう。可愛い。中々写真を撮らない私に対して疑問に思った謙也から「なおこ?」と声を掛けられた。

「あ、今撮る。ごめん」

そう答えて、身体を屈めた私は謙也のうなじに顔を近づける。どうしてこんなに無防備なの。私が殺し屋だったら殺されちゃうよ、謙也。そんなしょうもない事を思いながら、写真を撮るようにと出された謙也のうなじに私はそっと、キスをした。

「……」

……うん?私の唇が触れた瞬間も、そして離れても微動だにしない謙也。もしかして気づかないふり、してる?そうは思うけれど、とりあえず、パシャリ。私は言われたように写真を撮る。

「撮れたよ」

写真を確認してから私が声を掛ければ、「おお」と頭を上げる謙也。…あれ、私さっき、謙也にちゅーしたよね?謙也があまりにもそれに対して反応のないから、ついさっき自分でした事なのに本当にしたのか不安に思ってしまう。
「どれ、見せて」、そう言われたから携帯を差し出すと、その手を掴まれて。思いもよらない強い力にどきんと胸が高鳴りながら、そのまま腕を引かれて隣りに座らされた。

「……はい」

携帯の画面を謙也に見せる。まじまじと私の携帯を眺める謙也だけど、私の腕は掴んだままだ。謙也の手が熱くて、どうしても腕が気になってしまう。何を考えているんだろう、謙也。キスしたの、本当に気づいてないの?

「なんや?」

そう言って携帯を見ていた謙也が私の方を見る。

「……まさか顔までヒヨコと似とる言うんやないやろうな」
「い、言わない!」

叫んでからブンブンと頭を横に振ると「そない振らんでもわかるわ、頭取れるで」と笑われた。

「取れないですう」
「わからんやろ」
「生まれた時からちゃんとくっついてるもん」
「ほんま?継目ない?」
「なーいー!」

私は上を見て、首をグッと伸ばす。「ないでしょ」と聞けば「まあ前の方は上手く隠しとるけど、首の後ろは自分やとわからんやろ」、そう言われたら仕方が無いので後ろを向く事に。ふむう。継目なんて絶対無いのに、全く変な謙也だ……

ちゅっ。

うなじの辺りに柔らかい感触がして、ビクリと肩が震えた。

「仕返しや」

驚いて振り向いた私に告げて、べーっと舌を出す謙也。なあんだ。謙也、気づいてたんだ。そう思って、ふふっと笑いながら彼の方に身体を寄せる。

「気づいてないと思ったよ」
「あほか、そんな訳無いやろ」

グイッと頭を引き寄せられて、こめかみにキスをされる。不意に見えた謙也の手元には、ヒヨコ柄のパンツが握られていて。なんだかんだ言っても結局履いてくれるであろう彼を想像して、私は一人口元を緩めた。


謙也ハッピーバースデー!2019とはまた違う次元?のお話です。謙也ってほんとにヒヨコっぽい。私の他にもそう思っている方がいて嬉しかった!皆様はどうですか?
エクスタピアスでの後日談あります、良ければ読んでください〜!(0517)

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