隣の席 / 宍戸



隣の席の宍戸くんは、とても顔が綺麗だ。私が壁際で彼は壁際から二列目にあたるから、寝る時はいつもこちらの方を向いて寝ている。起きている宍戸くんももちろん、力強い眼差しや笑った時にクシャッとなる目元が素敵。でも授業中に隣の私だけが見れる、この可愛い寝顔を見るのが私はすごく楽しみだった。


「……」


今日も、スヤスヤと眠る宍戸くんの横顔を眺める。もし宍戸くんが急に起きた時に目が合ってしまわないかと気になって、ずっと見ていることは叶わないけれど。それでも、時々眺めているだけで私は幸せなのだ。


「それじゃあ今から配るプリントを……」


静かな教室に、先生の声が響いた。私はチラリと宍戸くんの方を見る。先生の声に反応して、宍戸くんも起きてしまっていた。……あーあ、せっかく寝てたのに。心の中で小さく呟く。回ってきたプリントを見ると、隣の席の人と交互に読むようにと例文が書いてあった。
この先生の授業ではよくあることだけど、これがまた緊張する。目の開いた宍戸くんは、とても素敵なんだけれど少し怖い。話しているのを聞いていれば、優しいこともわかるのだけど。私はプリントに先程先生が説明していたように記入をしてから宍戸くんの方を向く。…えっ。宍戸くんは、既にこちらを向いていた。


「わりい、ここ俺聞いて無かったんだけど教えてくんね?」
「えっ、あっ、うん」


思いがけない言葉に、私は慌ててプリントを差し出す。あーもう、こんなことになるならもっと綺麗に書けば良かった!そんなことを思いながら「読めなかったらごめんね」という言葉を添える。


「助かる、サンキュ」


そう言ってプリントを受け取った宍戸くんは、自分のプリントに書き込み始めた。「少し時間掛かるから、ちょっと待っててくれるか」。宍戸くんがそう言うので、私は返事をしてから周りを見渡したりして。
少ししてから、宍戸くんがプリントを返してくれた。受け取って、さあ読もうとプリントを見る。……ん?プリントの端に何か書いてある。見ればLINEのIDだ。どきん!胸が大きく高鳴った。「良ければLINEして」。側にはそう書いてあって。
恐る恐る宍戸くんを見る。でも、宍戸くんは何も変わらず、普通だった。「じゃあ俺から読むな」と読み始める宍戸くん。しかしその読み上げる例文なんて全然頭に入らない。プリントの右上に小さく書かれた宍戸くんの字を見る度に、私の鼓動は早くなっていく。


「…で、合ってたか?」
「へっ?」


例文を読み終えた宍戸くんが顔を上げて、聞いてきた。宍戸くんと目が合って、またもや私の心臓は飛び跳ねる。


「あ、う、うん!合ってたと思う!よ!」


全然追えていなかったくせに、とりあえず答える。だって今の私には、もはやこんな文章はどうでもいいのである。今、何よりも大事で重要なのは、この、右上に書かれたメモなのだ!「あー、まあ、写させて貰ったの読んだだけだから合ってるよな」。宍戸くんはそう呟いて黙る。もう色んなものでドッドッドッと心臓が早いのなんの。息出来てる?私、生きてる?もう一度宍戸くんの方を見ると、再び目が合った。どっきーん!し、死んじゃうのではと思うくらいに心臓が「花笠、読まねえの?」。

………そうだ。次は、私の番だった。










今日も隣の席の宍戸くんは、気持ち良さそうに寝ている。規則正しく浮き沈みする背中。スッとした鼻。意外に長いまつ毛。もう、この顔を何度見つめたのだろうか。
昔、長かった髪を切ったことで悲しんでいた友達もいた。でも私は、宍戸くんの綺麗な顔がよく見えるようになったと思えば、むしろ嬉しいくらいだ。初めて隣の席になり、宍戸くんの寝顔を見たあの日。心からそう思ったことを思い出した。


「でさー」


本来は国語の授業だったのだが、今日は先生がいないということで自習になった。ワイワイと話すクラスメイトの声を聞きながら、私は今日も宍戸くんの寝顔を見ている。

ふと、宍戸くんの目が開いた。いつものように熱視線を送っていた私は、宍戸くんと目が合ってしまった。


『ま た み て た』


そう口パクして、口角を上げた宍戸くん。恥ずかしいのと、嬉しいのとで私の頬は熱くなる。そんな私を見て満足そうに笑った宍戸くんは、再び目を閉じた。


ちょこっと書こうとしたら、VSS1つ分くらいに長くなってしまい、せっかくなのでこちらにも。テニプリプラス専用アカウントにて載せました。宍戸の寝顔はさぞかしかっこいいことだろうなあ…。(0406)

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