学ラン / 忍足謙



冬というものは、どうしてこんなにも眠くなるのだろうか。いっそのこと冬眠してしまいたいとは思うけど、学校もあるしお腹も空くし、ってかそもそもそんなに長く眠ることも出来ないし。


「ふああぁ」


図書館に来てから、まだ20分。テスト勉強にと来たはずなのに、欠伸が止まらなくて勉強どころではない。そもそも、この暖かい空間も悪い。ただでさえ眠かったというのに、この暖かさといったら。誰だ、図書館の方が勉強が捗ると言ったのは!……はい、私です。

そんなことを考えながら、シャーペンを握り締めて問題に向かい合う。……あ、やばい。噛み殺すことすらも出来ない欠伸が再び出てしまい、視線を感じてチラリと横を見る。手を止め、呆れた顔の謙也がこちらを見ていた。

「とりあえずなおこは1回寝た方ええんちゃうん」
「ええ、でもせっかく勉強しに来たのに」
「それはそうかもしらんけど、でもそれ、勉強どころや無いやろ」
「……」


ぐぬう。ごもっとも過ぎることを言われ、思わず言葉に詰まる。


「別にすぐに帰る訳や無いし、20分とか寝たらええやん」
「…そう思う?」
「うん、めっちゃ」

そう、謙也に力強く頷かれてしまった。ものすごい目力だ。まあでも、私もとてつもなく眠いし、このまま勉強してても身にならないのは目に見えている。

「ちゃんと起こしてくれる?」
「おお、どんくらい?5分でええ?」
「早っ!そんなんじゃ足りない!ってか寝れないし!」
「はは、なんや元気なことは元気なんやな」

ぽすん。謙也がそう言って笑いながら、私の頭に手を乗せる。……心配させてたのかな。勉強しようって私が誘ったのに。
少し申し訳無くなって、でも、謙也の優しさに嬉しくなってしまうのも確かで。堪えきれずに笑いながら頷くと、謙也の手が離れていった。


「ほな、20分後に起こすわ」
「うん!」
「寝るってなったら元気なっとるやんけ」
「えへへ。それじゃあ謙也、おやすみ」
「ん、おやすみ」


謙也の返事を聞いてから私はうつ伏せになる。でも何となく寝づらくて、謙也の方を向く形にして落ち着いた。ああ、やっと眠れる。20分でも充分だ。だってあんなにも目が開かなかったんだもん。目を閉じれるだけで幸せだ。

……そんなことを考えていた私だったけど、少し時間が過ぎてから気づいてしまった。全く、それはもう全く、眠りに落ちていかないのだ。たぶんこれは、眠過ぎて逆に眠れないという事態だ。授業中はめちゃくちゃ眠かったのに、休み時間になってさあ寝よう!となった時に突然眠れなくなるやつ。

眠いのに、眠れない。眠れないのに、眠い。こうしている間にも少しずつ時間は進んでいってるのに!私は一秒でも長く寝たいのに!


かたん。


突然隣りで勉強をしているはずの謙也が、静かに立ち上がる音がした。あれ、謙也どこか行くの?トイレ?それとも忘れもの?瞬時にして疑問で埋まってしまった私の頭の中。しかしこれもまた静かに、布が擦れる音が聞こえる。謙也は一体何をして……。

そう思った次の瞬間、私の身体が温かい何かに包まれた。それと一緒に、嗅いだときのある香りが鼻を擽って。……待って、待って待って。すぐに隣りからは椅子を引いて座る音が聞こえてくる。でもそれは、どきどきと高鳴る私の心臓の音によって、ほとんど聞こえなくなっていた。


「……」


気付かれない程度にうっすらと目を開ける。そこには、変わらず真剣にノートに書き込む謙也の姿があった。…学ラン姿から、ワイシャツ姿に変わっていたことを除いて。

その姿を見た途端、しっかりと理解してしまった。今私の身体を温めてくれているのは、謙也が着ていた学ランなんだ、と。

しかし、そう思ったら、もう眠るどころの話では無くなってしまった。目を瞑ると尚更に心臓はどきどきを超えてバクバクと煩いし、呼吸をする度に大好きな謙也の香りが鼻を擽るし、極めつけに目に浮かぶのは、寝る前に心配してくれていた謙也の顔。……一言で言うならば、私の中は謙也でいっぱいになってしまったのだ。

こんな状態で眠るなんて、無理である。もう脳内は『謙也が好き』という気持ちでいっぱいいっぱいで、眠気なんかが入り込む隙間なんてこれっぽっちも無くなってしまった。


もう起きちゃおうかな。だってもはや全然眠くないし。それに幾ら図書館が暖かいとはいえ、謙也だってワイシャツじゃあ寒いだろうし。
……そうは、思うけど。でもどうしても、もう少しこのままでいたいっても思っちゃうよ。だってこんなに幸せなんだもん。

だから、あと少しだけ、あったかい幸せに包まれててもいい?



お題リクエスト『謙也の話もっと読みたいです〜!』でした!特にお題が無かったので、こちらで学ランにしてしまいました。四天のみんなみたいな個性的な子達が学ラン着てるの大好きマンです!
リクエストありがとうございました!(0201)

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