恋愛相談を受けよう(後編)


「という訳で!謙也も来たことだし、みんなご飯も食べたことだし!本日の議題について話し合おうではないか!」

「おおー」「ふーふー」「……っす」

「……やる気無さすぎだよね!?」


半笑いで拳をあげた白石はまだいいとして、3杯目のお茶を冷まそうと一生懸命息を吹き付ける謙也と、めちゃくちゃ声の小さい光。
2人はまあ、確かにせっかくの休みに流れ弾食らった感じかもしれないけど、光は自分の好きな人のことなのに!…なんか私1人だけめちゃくちゃ盛り上がっている気がしてきた。…いや、別に盛り上がってる訳じゃない。た、頼られたのが嬉しい訳じゃ、ない!

「……まあいいでしょう。とりあえず私は元テニス部の3年生だってことは聞いて、それから白石も謙也も知らない子だったって聞いたんだけど」

まずは、白石が来る前に光と話したことから。それにしても謙也はともかく、白石が知らないなんてことがあるのだろうか?

「……」
「……」
「……へ?元テニス部?」


そう言って、キョトンと目を丸くして光を見つめたのは、謙也だった。


「え?」
「……」
「あ、あれ?謙也?」
「いや、ちょ待って…元テニス部なん?」
「……そうだったんだよね?」
「…まあ」
「ええ?て、テニス部?」

えええ、何なに?謙也は知らなかったの?そう思って白石のことを見ても、白石は困ったように頬を掻いている。

「え、白石が思っとるやつもテニス部なん?」
「……おん」
「まじで?」
「まじや」
「ま、まじか…テニス部やろ?」
「……」

頷く光を見て、戸惑ったように何度か『テニス部』という単語を呟く謙也。いやいや、光が言ってたんだからそこに関しては間違い無いはずだ。…ということは、謙也が思い違いを……。

「テニス部、テニス部、テニ……あ、ああ!」
「わあっ」
「テニス部な!」

キラーン!と自分の髪と同じくらいに瞳を輝かせた謙也は、そう叫んで光の方を見る。

「なっるほどなあ!」
「な、なるほど?」
「せやせや、テニス部やったわ!」
「……どういうこと?」

スッキリ晴れ渡ったような顔の謙也と対称的に、疑問が湧き出てくる私。
え、だってさっきまでめちゃくちゃ悩んでたじゃん謙也。でもこの盛り上がりから言って、さっきが悩んでいたことも嘘だとも思えない。…テニス部だけど、テニス部じゃないように思ってたって、こと?

「…テニス部ってことでいいの?」
「おん!テニス部やった!な、白石!」
「そうやな」
「……」

とっても嬉しそうな謙也と、安堵したように肘をつく白石。…だ、だめだ。さっぱりわからない。でも、結局のところ、謙也もちゃんとわかっていたということで間違いは無いらしい。
……何か見落としてる気がして、もやもやもするけれど。

「あー、じゃあ、テニス部ではあったけど名前は知らなかったと」
「おん!知らなかった!」
「…白石も?」
「ん、知らんかったわ」
「それなら夏の時は知らなくても、今は知ってるとかは?ほら、だってそういうの聞くと探したくならない?」
「お、おお…それは…」

私は、変わらず2人の方を向きながら話す。でもあんなに元気だった謙也は、そこまで言ってから白石を見つめて。私も謙也につられ、白石の方を見る。

「…うーん、そうやなあ。集会とかで探そうとは思うんやけど、そん時ばっかり忘れてまうねん」
「えー、白石が?忘れちゃうの?」
「そうやねん。堪忍な、財前」
「ああいや、俺は全然」
「……あ、お、俺も!俺も忘れてまうねん!」
「あ、そうな…」
「いやぁでもほんま何でやろうなー、なんでかいっつも忘れんねん!部活で財前見る度に探したろ思うんやけどな、部活終わったらソッコー忘れんねん!白石もそうやろ?」
「そうそう、俺もそうや」
「な!そうやんな!」
「……」

いやいや、白石はそうじゃないでしょ。絶対部活終わってもソッコー忘れないでしょ。もし白石がそんなアンポンタンだったら、完全に四天宝寺中テニス部崩壊まっしぐらだったでしょ。
…そうは思うけど、よくもまあ喋る謙也を見ながら頷く白石の優しさを知ってて、それをわざわざ言うのは違うってのはわかるから。


「……危なっかし」
「え?」
「いや、何でも無いっすわ」


窓の外を見ながら光が呟いた言葉は、私の耳へ届くことは無かった。


「んー、じゃあやっぱり2人ともわからないままか」
「すまんな」
「もー、本当だよう!聖書テニスが泣くよ!」
「はは、せやな」
「あんなあ、白石と俺が何でも知っとると思ったら大間違いやで?」
「あ、謙也にはそんなこと微塵も思ってないから安心して」
「……」
「……」

謙也がまさに『まじでほんまなんなんコイツ』とでも言いたいような顔で私を見てきたから、私も見返す。
でもそれに関してはね、本当に、謙也が何でも知ってるなんて思ってないんだよ。だから謙也が覚えてないことに関しては納得してるし、忘れてたことに関しても怒ってない。ただ謙也も後輩思いだから、光のことだからって思えば忘れなさそうなのにとは思うけど。…てか待って、え、謙也の髪なんか立ってる。ぴょーんって、なんか受信してるみたい。あれ?これなんか似たようなのあった気がするけど、なんだっけ?…まあでも謙也って結構髪に気使ってるし、こういうのって珍しいかも。あれかな、遅れちゃって超マッハで走ってきたから風でクセついちゃったのかな……。


「あのー」

「……?」「……?」

「謙也さんは今日、何しに来たんすかね」


不意に掛けられた声に、私と謙也は流れるように視線を移す。声の主である光は、先程のようにテーブルに肘をついて首を傾げていて。…でも、その表情は。


「俺の前で、みいこ先輩と見つめ合うために来たんすか?」

「なっ」「えっ」


光ってこんなに笑えるものだったのかと思うくらいの、笑顔だった。でも、なんか、たぶん、目が笑ってない…?

「…は、はあ!?あほか何でそうなんねん!んな訳無いやろ!」
「そ、そうだよ!あほ!光のあほ!」
「せやせや!もっと言うたれ!みいこ!」
「謙也と私がそんなことする訳ないでしょ!今だってなんか謙也の髪立ってるなとか、風でクセついちゃったのかなとか」
「え、ええ?」
「謙也は謙也でも、私は髪の毛しか見てなかったもん!」
「……」
「ね!謙也!私の目線、謙也の髪だったよね!」
「……おん」

ものすごく複雑そうな顔をした謙也は、親指をあげてグーサインをする。ほーうらね!見つめ合うってことは、お互いの目を見るってことだ。謙也は絶対、私と目が合ってなかったはずだもん!


「……そうらしいで、財前」


そして苦笑いを浮かべた白石にそう言われた光は、ぷいっと顔を外に向けた。「ちょお白石、俺まじで髪立ってるん?」「おお、言われてみれば妖怪レーダーみたいやで」「よっ…う、ウソやろ!?」、横で繰り広げられる会話を聞きながら、私は光の綺麗な横顔を見る。

光はどうして、そんなへんてこりんな結論にたどり着いたんだろう。誰がどう考えても、私と謙也を見ていたらそんなことある訳無いってわかるのに!見つめてたってか、見てたって感じだし。謙也が変な顔で見てきたから、私も見た。しかも私に至っては最終的に髪の毛見てたし。…でもさっき光、笑ってたな。笑ってたってか、もはや超笑顔だった。だけどこの間見た時よりも笑顔だったのに、あの時よりも嬉しくなかった。……なんでかなあ。

「妖怪レーダー直った?」
「あーまあええんちゃう?」
「ほんまか?……頼むから白石まで適当にならんでや。お前にまでそうなられたら俺もう…」
「あ、そんならまだこの辺跳ねとるで」
「え、どこ?…って適当やったんかい!」



「……あ」
「ん?」

外を見ていた光が、こちらを向いた。


「飯食って忘れてましたわ。そろそろパフェ食いに行きません?」
「……ああ!そうだったあ!」


そうだそうだ!ご飯食べ終わったら、パフェ食べに行こうって言ってたんだ!


「な、なんやなんや?今度はどないしてん」
「あのね、光が美味しいパフェのお店知ってるんだって!だからご飯が終わったらそこに行こうってっ」
「……」
「……」
「……ん?」

途中で話すのをやめた私を、3人は不思議そうに見つめる。
でもだって、謙也、お腹壊してたもん。お茶も飲んで、今は落ち着いたかもしれないけど…。

「その、謙也、お腹は大丈夫?」
「え?腹?」
「うん。パフェ食べれそうかなって」

もし、謙也が無理なら仕方がない。楽しみにはしてたけど、今日の目的は、光の相談に乗るためだし。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私の質問に、謙也の目が泳ぐ。

「……ま、食えるんとちゃうん」
「ええ、本当に?大丈夫?無理なら無理って…」
「それは、着いてから考えるっちゅー話や」


がたん。そう言いながら、いち早く席を立つ謙也。


「だ、大丈夫かな謙也…」
「まあでも結構ここにも居ったし、丁度ええやろ」
「そっすね」
「俺先行っとるわ、財前みいこのこと待っとって」
「はい」



それから私もすぐに席を立ち、各々会計をしてからファミレスを出た私達。そして道を知っている光と道を教わるように私が、その後ろを白石と謙也の2人がついてくるようにして、目的のカフェへと向かっていた。


「光が前に行った時は混んでたの?」
「んー、でも俺は1人やったからカウンターに座ったんで、割とすぐでしたよ」
「そっか、1人で行ったんだったね。…4人だと、中々座れないかなあ」
「あー、カフェって基本的に2人掛け多いっすもんね」
「そうそう」
「…でも2人ずつなら、別にええやないすか」
「……?」
「俺とみいこ先輩、部長と謙也さんで座れば」
「……ええっ?」

ま、待って待ってなんで私と光?めちゃくちゃ当然のように言われたよね?……あれ、なんかこれ、変だ。恥ずかしい。どきどきしてる。何が?なんで?うんん?


「やって俺の相談、乗ってくれるんすよね」
「……」


うっわ!ちょっとやだ、超恥ずかしいんだけど!後から付け加えられた光の言葉に、今日の本来の目的を思い出して一気に恥ずかしくなる。そうだよ、元はと言えば私が光の相談に乗る予定だったのに、白石と謙也誘ったんじゃんか。それなのに今更緊張するなんて、勘違いにも程がある。いや、ありすぎる。……は、恥ずかしい!

「みいこ先輩?」
「あ、う、うん!もちろん!もし分かれるんなら、私と光の2人の方がいいね!」
「ほんますか?」
「うん。アドバイスに困っても白石達のとこに行けばいいしね!」
「……」





そんなこんなで、歩いて10分とかからずにそのカフェへはたどり着いた。


「おお…まじか…」
「休日やのに珍しいな」
「俺前に来たの、土曜日やったんすけど」
「あ、そうなん?」
「うーわ、みいこ今日運最悪やんな」

「……う、嘘でしょお!」

しかし、心を踊らせてやって来たはずのここは、なんと!休業日だったのだ!

「えっ、こういう所って土曜日って普通休まなくない?なんで?どうして?私のチョコレートパフェは?」
「無い」
「休みなんはしゃーないわな」
「……」

食べたかったのに!パフェー!さっき我慢したのもあり、そう叫びたい気持ちをぐっと堪える。…はあ。悲しすぎる。こんな展開はさすがに予想していなかった。

「…どうする?光、他にパフェある店知っとるか?」
「あー、この辺にはもう無いっすわ」
「…そうだよね。中々無いよね、パフェって」
「なんや、みいこそんなにパフェ食いたかったん?」
「さっきの店で食いたいって言ってたんで俺がここもありますよ言うたら、来たいって言うて」
「ふーん、そうやったん」
「うん…でも大丈夫だよ!休みなものは仕方ない、もん」

…ぐすん。悲しいけど、でもこればっかりは仕方がない。せっかく光がオススメしてくれたし、食べたかったけど……。

「え、ほんならまた後で財前と来たらええやろ。別に一生やらん訳でも無いし」
「……」
「……」
「アレ、そういうことや無くて?」
「…まあせやな、謙也の言う通りや。今日はあかんかったけど、また後で来たらええやん、な?」
「……」


謙也の言葉に、白石は同意をする、けれど。


「やっ、でも今日は白石達居てくれたから良かったけど、2人でってなると…ほら、光に悪いっていうか」
「財前に?なんでや」
「だって光好きな子いるのに、私と2人でとか…さ?」
「…あー、なるほどな」
「でしょ?だから光、今帰る時にちゃんと道教えてくれる?そしたら私友達と、」



「…なら」


私が話すのを遮った光の声が、はっきりと、聞こえた。


「ほんなら、俺がデートで行く為の予行練習、付き合うてくれませんか?」
「…ええ?」


そこから続けられる光の思わぬ提案に、聞き返してしまう。


「やって部長らは男やから、一緒に来ても特にアドバイスも貰えへんし」
「……でもっ」
「それにみいこ先輩はパフェ食べれるし、俺もアドバイス貰えて、これならお互い得やないすか」
「……」
「……これでもまだ、ダメですか?」



あまりに真剣な顔で、光がそう言ってくるから。

私は首を縦に振るしか、無かった。





「今日のあの席順絶対間違っとったやろ」
「そういやものすごい嫌味言われとったな」
「せやねん!俺何も悪ないのに!」
「…まあ、ほんまなら今日一番楽しみにしてたの、財前やろうからなあ」
「……俺らほんまに来る意味あった?」


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