恋愛相談を受けよう(前編)


ついにやって来た、光の恋愛相談デー。まあでも、私的には白石と謙也の2人も来てくれることになったおかげで当初よりは心強く今日を迎えられました!

光の部活が終わってからということで、午後から会う予定になった私達。少し早めに集合場所に到着した私だったけど、いつも集合場所と言われるところに15分前には絶対にいるはずの謙也が見当たらない。……そんなまさか、謙也が遅れるなんて!そう思って周りを見渡して確認しても、一際目立つ金髪はやっぱり見つけられなくて。
そこでようやく不思議に思い、携帯を確認すると…。

『家出ようとしたらいきなり腹痛くなってまだ家出てへん』
『とりあえず先行っといて』

「…えええ!」

謙也から、まさかまさかのメッセージが来ていた。思わず1人で声を上げてしまい。慌てて口を手で覆う。
そういうことか。どうりで見当たらない訳だ。…でもまだ家から出てないってことは、いつも早い謙也が家から出ようとする時間から今もずっとお腹が痛いってことだよね?え、普通に心配なんだけど大丈夫かな謙也…。一応心配の言葉と、このパターンの場合必ず付け足す「急がなくてもいいからゆっくり来てね」というメッセージを送った後に、思った。

謙也って、ゆっくり来れるのかなあ。


「……てか白石も遅くない?」


白石だって、謙也ほど早くはないにしても集合時間に遅れたことなどない完璧人間だ。そんな白石が、5分前になっても来ていない。
ぶぶぶ。手に持ったままの携帯が震えて、謙也の返事かと画面を確認する。……しかし、それは謙也では無かった。なんと!なんとなんと!たった今噂をしていた白石だったのだ!
急いでメッセージを開く私の目に飛び込んできたのは…。

『すまん、迷子おっておかん探してる』
『たぶんそこまで時間かからんと思うけど、先に行ってて欲しい』

「…なんと!」

謙也に続く衝撃的な内容過ぎて、今度は口を塞ぐことすら忘れて携帯の画面を見つめる。いやいや、ちょっと待ってよ!2人とも来れないって、そんなことってある?今日、私が今まで生きてきた中で一番「なんと」って言葉使ってるよ!絶対!

「お疲れっす、みいこ先輩」
「ひ、光!」

白石のメッセージの画面から声の方へ目を移すと、学ラン姿の光が立っていた。

「……あれ、部長と謙也さんは?」
「あ、あの、それがね…」

周りをキョロキョロと見渡す光に、私は2人から来たメッセージの内容を伝える。そんな私の話を聞いて、光はきょとんと目を丸くして。

「え?…ほんまにすか?」
「うん、ほんまだと思う…2人がこんな嘘つく意味無いし」
「……」
「…あっ、でも、とりあえず光お腹空いたよね?2人にも先行っててって言われてるし、白石と謙也もすぐ来れるように駅前でどこかお店入ろっか」
「ん、そっすね」

私は2人から連絡が来たらすぐに返せるようにと携帯をポケットに入れて、カバンを肩に掛け直す。

「よし!いざ、出発!」





「光は何か食べたいのある?」
「別になんでもええっすよ」
「うーん、じゃあ4人で入るってなると…」


光と2人、並んで歩きながらレストラン街を行く。


「お好み焼きは?」
「んー、長居あんま出来ないんやないすか」
「あう…その通りだね…」


それからいくつかお店を見てから光と話し合った結果、名前がわかりやすいこと、そして2人が来るまでどのくらい時間がかかるのかもわからないことも踏まえて、駅の目の前にあるファミレスになった。

休日の昼過ぎということもありそこそこに混んでいたけれど、すぐに座ることが出来た。席に着いてから2人に連絡をして。

「光はい、メニューね」
「おおきに」
「良かったねすぐ座れて」
「ほんまっすわ、結構中混んどるし」
「ね。さーて、何食べようかなー」
「…あれ、みいこ先輩昼まだすか?」
「うん!せっかくだし一緒に食べたいと思って我慢してきたの」
「…そうなんや」
「そうなんでーす」
「……もっとちゃんと考えれば良かったわ」
「え?」
「んーん、なんでも」

…光は声があんまり大きくないから、ファミレスにしない方が良かったかなあ。4人掛けのテーブルは思ったよりも広くて、周りのガヤガヤとした声も相まって尚更そう思った。
…ま、でもせっかく席に着けた訳だし!とメニューを見ながらお腹と相談開始!今の気分は何だろう……あ、そうだデザートも食べちゃおっと!うーん、このパフェにしようかな?うわでもこのケーキも美味しそう…。



「みいこ先輩決まりました?」
「んー…うん、大丈夫!」
「じゃあ呼びますよ」

ピンポーン。光が押したボタンにより、少し時間が経ってから店員さんが駆けつけて。各々が注文して店員さんが去ったのを確認して、早々にメニューを片付ける光。

「ねーね、光はデザート食べないの?」
「……みいこ先輩は食うんすか?」
「そう!でもこのチョコレートパフェかチョコレートケーキかで悩んでて」
「…ふーん、チョコ好きなんや」
「うん、好きー」

結局パフェかケーキか決められなかった私は、光にそう答えてから再びメニューのパフェとケーキとにらめっこ。うむむ、やっぱり悩みますな…。

「光はさ、どっちがいいと思う?」
「んー」
「……」
「……」

私が指差したパフェとケーキとを交互に見る光。でも、思ったよりもすぐにパッと顔を上げて。……うん。相変わらずいつ見ても、イケメンくんだ。

「あの」
「うん?」
「俺、他にもパフェある店知ってるんすよ。なんで飯食ったら次そこ行きません?」
「えっ、ほんと?」
「はい」
「行きたい行きたい!絶対行きたい!」
「んじゃ、ここは無しでもええすか?」
「バッチグー!」

光がメニューを片付けてくれるのを見ながら、光の言葉にワクワクと胸を踊らせる私。

「そのお店ってさ、ここら辺にあるの?」
「まあ、歩いて行ける感じっすね」
「そうなんだあ!チョコパフェある?」
「なんや色んなパフェありましたよ、抹茶とかいちごとかも」
「えーそれ絶対悩んじゃうやつじゃーん」
「チョコやないんすか?」
「それはそうなんだけど…」

確かに今はチョコレートパフェが食べたい…けど。いざ色んなパフェを目の前にした時、心揺らぐ自分が目に浮かぶのも否めない。


「でもでも、色んなパフェがあるなんてそれだけで超幸せだよね!」


私がそう言うと、「幸せなんすか?」と光はなんだか嬉しそうにはにかんだ。

「うん、超幸せだし超楽しみ!」
「…それなら良かったっすわ」
「えへへ、ありがとう。てか光、よくパフェのお店なんて知ってるねぇ」
「ああ、偶々前に言ったカフェでパフェがやたらメニューにあるとこあって、珍しくて覚えてたんすわ」
「へえ、誰かと行ったの?」
「あ、いや1人でですよ」

「カフェ巡りすんの好きなんで」。そう私の質問に答えてから、光は水を一口。…1人でカフェかあ。聞けば聞くほど光って大人っぽい。

「入るの、緊張したりしない?」
「んーあんま気にしたこと無いすけど」
「…すごいねえ、光は」

ふと、目の前の光と目が合った。考えてみれば、光とこうして話すことってあまり無かったかもしれない。向かい合って座ってお話するなんて、初めてかも。

「でもさ、もし彼女が出来たら一緒に行けるね!」
「…まあ」
「うわあちょっと、そんなの絶対楽しいじゃん!」
「……」
「いいねー、今から楽しみだね!」

ウンウン!光はマネジだった私にも優しくしてくれるくらいだから、きっと彼女のことも大切にしてくれるでしょう!

「ちなみにさ、光の好きな人って四天の人?」
「はい」
「じゃあ、3年生?」
「…そっすけど」
「じゃあじゃあ、名前は?わかる?」

その流れで、当初の目的だった光の恋バナに。まだ2人はいないけど、パフェのこともありテンションが上がっている私は、思わずテーブルの上に身を乗り出しそうな勢いで光を見つめる。

「……名前すか」
「うん」
「いや、ちょっとわかんないすね」
「…そっかあ」
「すんません」
「ううん、全然!それなら何か特徴は?元何部とか、見た目の特徴とか」
「ああ、部活…」
「うんうん」
「テニス部…でしたね」
「……えっ、テニス部!?」
「うん」
「テニス部なのに名前知らないの?」

確かに女テニも部員は多いけど、でも一応大会とか一緒になるときだってあるのに…。てか、女テニだったらそれこそ白石とか謙也にも聞けそうじゃない?

「あー…」
「白石とか謙也も知らなかった?」
「……」
「……」
「そう、なるっすね」
「……なるほど」

…ということはきっと、レギュラーメンバーの子とかでは無いってことか。うむうむ。


「まあでも、それでもだいぶ絞れるし全然問題ナシ!」


そう言いながら、もこもこと女テニの子達を思い浮かべる。結構元気系の子が多いけど、もちろん優しくて大人しい子もいるし。色んなタイプの人がいるけど、光はどの子が好きなんだろう。


「それなら他に、こう、見た目的にどう?」


そして私と仲の良い子もいれば、あまり話したことの無い子もいる。…仲良い子ならいいなあ、光なら自信もって勧められるし、光の手助けもしやすいし。

私の質問に、テーブルに肘をついて考えるように声を漏らす光。


「んー…」


でも、光の目は、何故か私を捉えていた。

…こういう時って普通、上とか、あまり関係無いところ見るよね?私の顔を見たら思い出すってことなのかな。私に似てる子、とか。


「あの、別に簡単なのでもいいんだよ!メガネしてるとか、背が高いとか低いとかそういうのでも」


そう話しながら一生懸命女テニの子達を思い出すけど、私に似てる人がいるなんていうのは聞いたことは無い。それなのに、光はやっぱり私を見ているように思えて。

な、なんで私…?こんな風に見つめられたことは今までなくて、私は光の目から逃げるように水の入ったコップへと手を伸ばした。そして一口水を飲んでから、再びゆっくりと目を戻す。

もう一度、光と目が合った。


「……可愛ええっすよ」


ふう、と息をついた光が呟くようにそう言った。

「……」
「……」
「あ、ああ!光の好きな子が可愛いってこと…って、いやいやそれはそうでしょ!」


一瞬、びっくりしてしまった。


「好きな子なんだからそりゃ可愛いでしょうよ!」


光が、私を見つめたまま言うもんだから。


「…そうなんすよ、めちゃめちゃ可愛ええんすよ」
「もう、それわざわざ言わなくてもわかってるし!」
「しゃーないやないすか、思ったんやし」
「思っ…?」



「よー、おまっとさん」

光の言葉の意味を理解しようとする私の耳に、聞きなれた声が聞こえてきた。

それは迷子の子供とお母さんを探していると連絡のあった、白石のものだった。

「あ、白石ー!」
「お疲れっす」
「お疲れさん、遅れてスマンな。…謙也は?トイレか?」
「……」
「あー…」
「まあ、あながち間違ってないっすね」
「ん?」
「あのね謙也もね、お腹痛くてまだ家から出てないって連絡来て」
「え、ほんまに?」
「うん。だからまだ来てないの」
「それ来られへんやないの?」
「一応、そうは言われてないけど、まだ返事来てないんだよね」
「……まじか」

光の横に座りながら目をまん丸にした白石は、そう言って光を見る。すると光は首を横に振って。

「案外なるもんなんやな」
「変なこと言われへんなと思いましたわ」
「俺も気いつけよ」

「えー何何?なんかあるの?」
「ああいや、何もないで。…てか2人とも何か頼んだん?」
「頼んだっす」
「私も、」
「ほんなら俺もなんか頼もかなー」

さらりと白石に流された私の質問は、その後の白石の質問によりそのまま消えてしまった。

「あ、そういえばちゃんと迷子のお母さん見つかった?」
「おん、実はあの後案外すぐ見つかったんやけどな、迷子が女の子やってんけど、行かんでって泣かれてしもて」
「うわあ…」

流石の白石、年齢に関係無くモテモテである。

「それでよくバイバイ出来たね?」
「隣り並んで写真一枚撮って、それでなんとか誤魔化してもろたわ」
「あはは、それで誤魔化されちゃうの可愛いね」
「そういうみいこ先輩も誤魔化されそうすけどね」
「なんだと光う!」
「それ謙也もやない?」
「謙也さんは鉄板すわ」
「はは、鉄板て」
「……あはは!謙也今頃くしゃみしてたりしてね!」

謙也って無駄にそういうの受信しちゃいそうだし!来たら聞いてみよーっと!



「綺麗に誤魔化されとるな」
「綺麗に誤魔化されとるすね」
「まあ楽しそうやからそのままにしといて、俺決まったから財前ピンポン押して」
「うっす」


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -