花火をしよう


今日は四天宝寺のみんなで、花火祭りじゃあー!


「…ってなんでこれしかいないの!」
「ユウジは家で流しそうめんやろ、小石川は彼女と蛍見に行って、銀さんはどーしても外せない用事が…」
「知ってるもん。そしてイッシーは蛍見に行くってロマンティックだから許す」

せっかく今日の練習終わりに、みんなで花火しようと思ってさ!お父さんがゴルフの景品で貰ってきたちょっといい花火のセット持ってきたのにさ!結局は白石、謙也、光と私の4人しか集まらなかった。

「みいこもいきなり言うからやで」
「だってみんなのことびっくりさせたかったんだもん」
「びっくりはしとりましたけどね」
「ま、でもとりあえず集まったんやしやろーや」

白石はそう言ってチャッカマンに手を伸ばす。ろうそくに火を灯し、ぽたぽたと蝋を地面に垂らしてその上にろうそくを設置すれば、簡単に火種の出来上がりだ。

「でも光がいるのって意外!『めんどくさいっすわ』とか1番言いそうなのに」
「……」
「あ、ざ、財前は線香花火ものごっつ好きやねん!せやから!な!」
「ふーん、そうなんだ。でも私も好きだよ、可愛いよね」

私が花火に手を伸ばすと、3人も手を伸ばす。まずは普通の手持ち花火から。私が白石が作ってくれたろうそく火種に花火の先端を当てていると、横から他の3人も一気にろうそくに花火を向ける。

「ちょっと!多い!」
「しゃーないやん、ここしかないし」
「俺が1番に付けんねん!」
「いやいや最初は私だから!私が主催者だから!」
「はいはい、部長と謙也さんは定員オーバーなんで退けてください」
「あ、光ナイス!そうだよ、定員オーバーでーす」
「俺言っとくけどこの3人の中じゃ1番早かったからな!」
「順番とかじゃなくて、気持ち的な意味で」
「どういうことやねん」
「頑張れー!私の花火ー!…あっ」


小さなろうそくの火に一気に4本も花火が向けられたおかげで、最初は頑張って燃えていた火もすぐに消えてしまった。


「ほら言うたやん」
「それは私のセリフだし」
「あーと、チャッカマンチャッカマン…」
「…白石はさすが部長だね」
「誰も動かへんからしゃーないやろ」
「てへへ」
「お、あったあった。付けるでー」


白石、本日2度目のろうそくへの点火。


「よっしゃついた行くでー!」
「ちょっと待って!」

ろうそくに火がついた瞬間、嬉しそうに謙也が手を伸ばそうとしたから私は声をあげた。だって、私が最初につけたいもん!

「私が最初である、皆の者待たれよ」
「突然どうしたん」
「いや、主催者らしい威厳が必要かなって」
「みいこ先輩に威厳…」
「光には見えないのか…可哀想に…」
「たぶんみいこにはこの先一生つかへんで」
「うるさーい!」

横から口を挟む3人を一喝して、私はさっきの続きから火に当てる。少し待つと、パチパチと音が聞こえて綺麗な緑色に光ってくる。


「きました点火ー!」
「おっしゃ次俺!」
「…いいだろう、謙也よ」
「それまだ続いとるん」
「おー、俺今年初花火や」
「私も今年初ー!ひゅー!」
「綺麗っすね」
「え?花火?それとも私?」
「みいこ先輩に決まってるやないすか」
「きゃー!聞いた謙也!」
「はいはい綺麗綺麗」


光ってこういうこと言えちゃうからすごいなぁ。嘘でも私には出てこないと思う。


「おっしゃーきたー!」
「あ、謙也俺に火ちょうだい」
「ええっ俺の時の感動薄っ」
「わー、謙也のも綺麗ー」
「謙也さんの髪の毛の色みたーい」
「もうええっちゅーねん!」

話していると、白石と光の花火もついに点火。言ってしまえばただ火がついただけなのに、楽しいー!


こうして私達は次から次へと花火を消化していった。

「私昔こうやって丸書いてた」
「…おお、なんか目がおかしくなってきたっすわ」
「でしょー!」
「目とじてもなんか光っとる気がする!どないしてくれんねん!」
「てへへ」



「みいこー今日全部やるん?」


自分の花火が終わって、新しいものを取りに行った白石が声を上げる。


「ううん、打上げ花火とかもあるしまた後でみんなでやる!」
「了解。ほんならそろそろ線香花火やるか?」
「やろうやろう!良かったね、光!」
「え?…ああ、そっすね」

「ほら、1本ずつ持っていきー」

そう白石に言われてみんな手を伸ばす。あれ、これなんか白石主催になってない?言われてみれば、ろうそくやってくれたのも白石だったし。

「みんなお願い事何にするー?」
「え、何やねんそれ」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
「白石知らんの?線香花火が最後まで玉が落ちずに終われたら、願い事が叶うんやで」
「なっ、…それ誰が言うたん?」
「…そこは気にしちゃダメなとこだよ!」
「せやせや!」
「部長空気読んでくださいよ」
「やってそんな…乙女チックすぎやろ」
「世の中、乙女チックに生きるのもいいもんだよ」
「…そ、そうやんな」
「じゃあ白石には考える時間を与えましょう!謙也の願い事はー?」


3人で線香花火を持ちながら、ろうそくの周りでしゃがんで話し始める。


「俺は、夏休み明けの体育祭で100m10秒切ることやな」
「え、それやばくない?」
「謙也東京オリンピック狙っとる?」
「そのレベルっすよね」
「ええやん!願い事やし!」
「てかなんで謙也テニス部にしたの?もったいなくない?」
「やってテニスもめっちゃおもろいし、走るのも好きやし…しゃあないやん」
「あう、ごめんよ。そんなつもりで言ったんじゃないよ」
「でも明日からでも謙也さん陸上でも全然通用しそうっすよね」
「まぁ今更テニス部から抜けられても困るけどな」
「謙也の足が無くなったら辛いもんね」
「せ、せやろ?へへーん!」


嬉しそうに鼻をかく謙也に我々が思ったことは一緒だろう。あえて誰も口には出さないが。


「じゃあ次、光は?」
「俺は彼女が欲しいっすかね」
「ええ!またまた意外!」
「そっすか?」
「だって、光ってイケメンだからすぐ出来そうだもん!ね?」
「…ま、我が後輩ながら顔はイケとるな」
「そうだよね!私もテニス部なら、光が1番イケメンだと思う!」
「お!」
「ひゅー!」
「……」


白石、謙也、光各々が様々な反応を見せる。なんだなんだ?


「どしたの」
「いや、俺も財前かっこええと思うで」
「性格もちょっとツンツンしてるけど優しいやんな?」
「わかるわかる、私が荷物持ってるとき大体持ってくれるし」
「おお…」
「おお…」
「先輩らうっさいすわ」
「ぷぷー!でも、本当にそうだよね。光モテてるでしょ?」
「…誰でもええ訳やないんで」
「おお…」
「おお…」
「おお…」


い、イケメンの言葉だ…凡人には言えない…。


「あー俺の話は止めにして…部長は決まりました?」
「俺はカブリエルの越夏やな」
「え、いいの?それは白石絶対に落とせないよ?」
「この1本にカブリエルの全てが…」
「むしろこの線香花火が可哀想に見えてきますわ」
「ええっ、そんな重い話なん?」
「でもさ、きっと白石なら願わなくても実力で夏越えれそうだよね」
「当たり前やろ」
「当たり前なんだ…」
「でもほんまに、もはやカブトムシ博士よな白石」
「あいつを見つけてから俺の世界変わったんや…」
「……」

端正な顔立ちの白石が、うっとりした顔をして少女漫画のような台詞を言われてる相手が、カブトムシって。そんなこと、一体誰が想像つくだろうか。

「…じゃあ最後、みいこの願い事は?」
「えーんー」
「みいこが言い出しっぺやろ」
「じゃあ私も光の真似して、彼氏が欲しい!」
「えっ」
「おっ」
「…かっ」
「今、かって言った人何?」
「あいうえおか、っすよ」
「そうきたか…。ま、いーや。はい皆さん点火ー!」


みんなで一斉に線香花火に火をつける。


「がんばれー!」
「アカンこれ無心なるわ」
「どうなんやろ」
「俺のが1番やー!いけー!あっ!」


ぽた。謙也の線香花火、没落。


「うわー!俺のもう落ちた!はや!」
「ちょっと笑わせないで謙也!」
「さすが謙也さん、こんなところまでスピードスターすね」
「財前うっさいわ!」
「待って本当に面白すぎるから!…あっ!」


ぽた。私の線香花火、没落。


「落ちた!私の落ちた!謙也のせいだー!」
「だっはっは!みんな落ちてまえー!」
「悲しいーもう本当謙也のせいー!」
「……」
「……」
「え、超必死なんだけど」
「2人ともがちやな」
「…あっ」


ぽた。白石の線香花火、没落。


「カブリエルー!」
「やだー!」
「…俺が死ぬ気で越冬させたる」
「もはや願い事超えとるやん」
「白石なら出来るって私信じてる」
「カブトムシ博士の名にかけて」
「なんやお前らがおもろいこと言ってる間にも財前頑張ってんで」
「わー!光の線香花火綺麗ー!」
「俺らのほんまソッコーやったんやな」
「たぶん線香までしかやっとらんで終わったんやろな」
「何それ辛い」

光の持っている線香花火は、たくさんの小さな花火が特徴的な音を鳴らして咲いている。ああ、夏だなぁ。
少しずつ、少しずつ花火が小さいものになっていく。え、これ、終わる…。いつの間にか私達はみんな黙って花火を見つめていた。

「お、終わった!」
「綺麗やったなぁ」
「光すごーい!きっと彼女できるよー!」
「そうだといいんすけど」
「気になる子いるならアタックしちゃえ!」
「…そっすね」

「あかん、財前光の目が光っとる」
「獲物を狙う目やな」
「本人から了解得たようなもんやしな」
「てゆーか謙也今おもろいこと言うたつもりやった?」
「…忘れたんなら掘り返さんといて」


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