(2年の秋のお話です)

午前中の部活が終わり、ブン太とジャッカルと昼飯を食べてから夜に観るDVDを借りて帰宅中。今日の練習はあほみたいにキツかった。新人戦の後、難なく先週の県大会を優勝した立海だったが、真田のやる気が今日はもりもりで。午後までだったらと思うと末恐ろしい。今日は昼寝でもしようか。


「さぶっ」


風が冷たくて、つい声が出た。一気に秋めいた外の気温は、今日のように天気の良くない日は思っているよりも寒い。早う家に帰って、布団で寝たい。そこの角を曲がれば、もう俺の家の通りになる。……あれ、あの制服って。
見覚えのある制服の後ろ姿が、俺とは逆の方向へ歩いていくのが見えた。俺は思わず歩く速度を早める。のんびりと歩くその足には、距離の割にすぐに追いついて。まだ少し遠いけど、俺は声を掛けようと息を吸い込む。


「心結!」
「わぁ!…あ、まさ」


驚いた声を上げて振り返った顔は、俺だと知って笑顔になった。


「お疲れ様!」
「おん、心結は?休みやったんか?」
「私も部活帰りだよ、お母さんがおばあちゃんのとこ遊びに行くって言うから来たの」
「そうなん。…で、今からどこ行くんじゃ?」
「あー、なんか公園の木が紅葉して綺麗だったっておばさんが言ってたみたいで、お母さんとおばあさん残して1人で見に行くとこ」

「まさは見た?」目をきらっとさせて聞いてくる心結には悪いけど、むしろ紅葉してることすら知らんかった。そんな寒いんか、もう。想像して一層寒くなった。

「見とらん」
「そっかぁ」
「じゃから、一緒に行く」
「えー!いいの?」
「ん」

気がつけばもう家の前を通過していた。寒いけど、眠いけど、それよりもしたいことができた。こういう俺は、嫌いじゃない。

「荷物置いてきたら?」
「んー、別にええよ」
「えっ重くないの?」
「大丈夫じゃき」

肩にかかる重さは、あまり気にならなかった。それよりも心結と早く紅葉を見に行きたい。「それじゃあ行こっか!」そう言って心結は再び歩き出して、俺も隣りを歩き始める。

「あ、そう言えば県大会お疲れ様」
「おお」
「楽しかった?」
「楽し…まぁ、そうじゃな」
「うむ、ならよろしい」
「氷帝はどうやったん?」
「うちも優勝だったよ!」
「ふーん」
「うわ、強者の余裕というやつですか」
「やって実力から行けば順当じゃろ」
「そう!今年はねー、立海にも勝っちゃうんだからね」
「ほーう?」


心結が親指をぐっと上げてにやりと笑う。可愛いやつ。


「なんて、こんなとこで私が言っちゃだめか!」


てへへ。そうやって笑う心結に信頼されとる氷帝メンバーが、羨ましいとは言わん。でも、いつもこの笑い顔が見れるんはええのう。思わず頭を撫でたくなって手を伸ばしたけど、やめた。まだ、たった1年しか経ってない。

「はー、でももう寒いねぇ」
「いきなり来よったよな」
「そうそう!まさ、風邪気をつけなよ」
「ん、心結もな」
「はーい」

少し鼻の頭を赤らめている心結は、やっぱり可愛くて。笑うのを堪えていると、「あ!」嬉しそうに声が上がった。


「見て見て!すごい綺麗!」


心結が指さす先には、黄色と緑の並木道が出来ていた。赤はないけれど、確かにこれはこれで綺麗だ。


「すごいね、綺麗に黄色だね!」
「そうやのう」



「すごーい!ほんと綺麗!」

並木道の中を1人駆け出して、周りを見ながら歩く心結。真ん中辺りで立ち止まって写真を撮っている。


「まさもこっち早くおいでよ、すごいよー!」
「んー」


そう呼ばれて、少し早歩きで心結のところへ向かう。いつも先に行く心結と、追いかけてばかりの俺。でもこういう俺も嫌いじゃないんやから、ほんまに不思議じゃ。

「ほら、こっちにきたらもっと綺麗!」
「おーほんまじゃ」
「もう、まさ反応薄い!本当にすごいのにっ」

口を変な形にして拗ねる心結。俺の分も、きっと心結が反応してくれとるよ。そう言おうと思ったけど、もっと拗ねそうだからやめておいた。

「でもほんまに綺麗やと思っとるよ」
「本当?」
「うん、本当」
「…えへへ、そっか!ならいいよ!」

隣りにおるのが他のやつじゃったらわからんけど。心結の隣りは特別じゃ。いつもよりも食べ物は美味いし、景色も綺麗に見える。それを伝えてみたいけど、その権利が、俺には…。

「でも、1人で見るよりこうやって誰かと見た方が絶対楽しいね」
「そうなん?」
「だって1人で騒いでたら変じゃん」
「…心結ならやってそうじゃけど」
「ええー酷い!そんなことないし!」
「ぷっ、すまんすまん」

俺の思ったように怒ってしまう心結は、それだって可愛く見えてしまう。こんな風に思い始めて、何年目か。何回目の秋やろうか。

「ねえまさ、写真撮ろ?」
「え、俺も?」
「何言ってんのー、決まってるでしょ!」
「…ん」

携帯のカメラをセットする心結を尻目に、もう1度周りを見渡す。やっぱり綺麗じゃ。心結と今日会わんかったら、きっと、知らんかった。


「おまたせ!…ほらほら、まさも入って!」


心結に促され顔を少しだけ寄せて、画面内に収まる。パシャり。「もう1枚!」。心結がそう言って、もう一度、パシャり。


「よぉーし、後ろの紅葉綺麗に撮れた!」


そう言って喜ぶ心結と一緒に写真を見ると、2人の間には思っているよりも距離があった。でも、この写真を見て心結が喜ぶんなら、それでもええかと思う。もし次があるんなら、次に撮る時はもう少し縮まっとったらええなとは思う、けど。


つくづく君にベタ惚れ
(anotherアンケート1位 仁王雅治)



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