○●○



「あっちー」
「あっつーい」

ミーンミーン。今年もせみがうるさい季節です。休日の部活が終わって、普通であればもうそろそろ夕暮れの時間なはずなのに、日は高いわ暑いわ蝉はうるさいわ。

「今年もやべーっすねこの暑さ」
「仁王なら溶けてるね」
「蒸発してるな」
「いやいや見て。まだここにおるから」
「あっれー本当!仁王って雪の精霊だと思ってたのに」
「…何その設定」
「夏に溶けて、冬に復活するから?」
「……そのイメージええのう」
「えっいいんすか?」
「でも夏に溶けちゃうんだぜ?海とかプールとか行けねーんだぜ?」
「別に…無理して行かんでもええきに」
「えー!彼女(今はいない)の水着姿見たくないんすか!」
「今の()内は余計じゃ」
「自分もいねーくせにな」

ちなみに私達4人は残念ながら、誰もそういう相手がいない。夏を楽しもうにも、キャッキャッウフフが出来る身でないのだ。

「でもま、もしどうしても水着が見たくなったら部屋の中でもえーし」
「……」
「……」
「えっ、今の引くとこ?」
「家の中で水着着てもらって何が楽しいんすか!青い空、青い海!それがバックにあってのものでしょう!」
「……」
「……」
「はい赤也もこっちに仲間入りじゃ」
「えー!」

家の中で水着着てもらうって…すごい考え方…。と思っていたところに、赤也の水着に対する熱血ぶりにブン太と2人引いてしまった。てかあれ?赤也彼女いた時あったっけ?

「ねー赤也って彼女いたことあったっけ」
「ねーよ」
「ねーぜよ」
「だよね」
「なっ、なんすか!別に彼女いなくたっていーじゃないすか!それ言ったらひなこさんもじゃないすか!」
「あ、ちゅどーん」
「ひなこ爆破」
「い、いーよ!いないのは別にいーよ!私が言いたいのはそれじゃないよ!だから私に地雷踏ませないで!」
「そうそう、ひなこめっちゃそれ気にしてっからな」
「可哀想ひなこ」
「す、すんません…もし良ければお詫びに俺と付き合いますか?」
「えっ何それちょっときゅんとした」
「何で丸井先輩がすか」

私はというと、改めて突き付けられた現実に胸が痛くてそれどころではなかった。くそう。私だって彼氏の1人くらい欲しいわい。

「ってそうじゃなくてさ、赤也に聞いたのは」
「おん」
「彼女いた時ないのにすごい妄想力じゃない?って話」
「ああ…」
「だって青い空青い海じゃなきゃ!とかさ」
「いや、それはなひなこ」
「うん」
「男子ってやつはそういうもんなのよ」
「うんうん」
「えー、みんなそんなに妄想するの?」
「……」
「……」
「……」
「えっ!こわい!」

3人が思わず黙ってしまった。やだ、今妄想中?怖い怖い怖い!

「いや、そんな今すぐしろって言われて出来るもんじゃねーからな」
「そうそう」
「でも、そんなにするのって言うたひなこの顔見とったら、そんなにするとも言いづらくてのう」
「…うん…お気遣いありがとうね」
「しかもこんな暑いとこじゃ集中出来ねーから」
「全力っすよね」
「調子良い時ゾーンに入るよな」
「わかるっすそれ」
「……」
「俺はそこまでは無いからな」

「まーでも、ひなこも初めて付き合う前に男子の事を少しでもわかって良かったんじゃねーの?」
「わからなくても良かった気がするけどね」

こんなに何とも言えない気持ちになるならさ。

「んー、私も誰かにそういう事されてるのかなぁ」
「ひなこ、それは止めときんしゃい」
「万が一も無いとは思うけど、たぶんそれ考え始めたら男子みんな気持ち悪くなるから」
「…なんか最初の方失礼じゃなかった?」
「間違いないっす」
「こらー!ブン太ー!」

私はぐーでブン太の肩を叩く。万が一くらいはあるよ!きっと!絶対!あるはずだ!

「いてててて」
「でもブン太の言う事もわかるから、考えるのは止めよーっと」
「おい」
「そっかー、でも妄想くらいするよね」
「女子もするやろ」
「する」
「おい」
「むしろ女子のがすぐしてる」
「おい」

好きな人とちょっとなんかあったら、ワーキャー叫びながら友達とありもない話で盛り上がるのは女子の強みであると私は思っている。

「でも女子は海の妄想とか無さそうっすよね」
「あれだろ、ワイシャツのはだけた肌だろ」
「いやん」
「や、やめてよ!私は違うからね!」
「ひなこはどんなのだよ?」
「気になる…」
「ほら先輩方、ひなこさんは相手いないっすから…」
「あ、すまん」
「俺とした事が、わりーな」
「顔が笑ってるんですけど!もう絶対申し訳無くないの伝わるんですけど!」

だんだん!ただでさえ暑いのに、地団駄を踏んだら更に暑くなった。なんなの!もう!

「あー暑い!溶けそう!」
「お、ひなこも仲間になるか?こっちおいで?」
「えっ何それちょっときゅんとしちゃう」
「なん!俺の時は!無視したのに!」
「これが経験の差ってやつよ、赤也」
「くっそー!絶対ひなこ先輩きゅんとさせてやります!」
「え?そこ?」



次の日、仁王の事をいつもかっこいいって言ってる友達に「こっちおいでって言われた」と話したら、そりゃあもう羨ましがられた。本当は雪の精霊への誘いだけど。ああ、これでまた妄想が広がるのね。


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