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(軽いですが下ネタになるかもしれません、苦手な方はお気をつけ下さい)


「あ、そうだねえねえ聞いて!」


学校が終わり、部活が始まるまではまだ結構時間がある。今日は掃除や委員会やらでみんな忙しいらしく、今のところ部室にいるのは、私と赤也とブン太だけ。


「どしたー」


道具の発注をしていたのを止めて振り返った私に対し、ブン太からは聞いてるんだか聞いてないんだかわからない生返事が返ってきた。赤也に至っては無視をキメてる。
ブン太は携帯ゲームに、赤也は週刊漫画に夢中なようで、私が話しかけてもさっきからこの有様なのだ。

「なんか今日ね、友達4人で話してた時にね」
「んー」
「……」
「テニス部で誰派かって話しになってね!」
「おー」
「……」
「4人中2人は、やっぱり一番人気の幸村くん派だったんだけどさ」
「へー」
「……」
「あっ、ちなみに私は柳くんね!柳くん!」
「……」
「……」


もはや私の情報にはブン太すら反応してくれなくいんですけど。


「ちょっと聞いてるー?テニス部の話してるんだよー!」
「聞いてる聞いてる、ひなこは柳だろい」
「そうそう!柳くん!」
「……」
「んで?後1人は?」
「……誰だと思う?」
「……」
「んー……俺?」

「ウッワ!ウッッッワ!出たよ丸井ブン太!」

皆さん聞きました!?誰派か聞かれて、一番に自分の名前を出しましたよこの男!

「出たよ俺って何だよ」
「いやこう、自分に対する自信的なものが漲ってるていうの?」
「……それは別にいーじゃん」
「いいよ、だから丸井ブン太ってしか言ってないでしょ」
「……」

「でも、俺じゃねーなら誰だろ」。……やはり自信に漲っているブン太の発言はこの際置いておこう。

「幸村くんと柳じゃなくて、でもわざわざ問題にするってことは仁王辺りでもねーんだろい?」
「違いまーす」
「柳生」
「ぶー」
「…ジャッカル?」
「ぶぶー」
「……えっ…………じゃあ…真田?」
「いやどんだけ真田くんが意外なのアンタ」


あまりにも怪訝そうな顔で真田くんの名前を呟いたブン太に、思わずつっこんでしまう。


「そう言う訳じゃねーよ、真田みたいなタイプって一部ファンとか居そうだし」
「いやそれそんなフォローなってないよ?…まあ、違うけどね」
「え、違うの?」
「うん」
「……は?何、レギュラーメンバーじゃねえの?」
「えっ、や、まだ1人いるでしょうが」

本当にわからないらしいブン太は、キョトンと目を丸くして私の顔を見つめる。いやいやいや、もう1人居るでしょうよ!目の前に!
その意味を込めて、ブン太の向かいに座って熱心に漫画を読む赤也を見る。


「……ええっ、赤也!?」
「はい!?」
「イエース!」
「……は?」


突然ブン太に大声で名前を呼ばれるわ、顔を上げれば私に指さされているわ。心底驚いている様子の赤也は、私とブン太の顔を見て目をぱちくりさせる。

「よーかったじゃん赤也!」
「や、だから何が?」
「ひなこの友達にお前のこと好きなヤツいるんだってよ」

「……マジすか!?」


ガタン!あんなに熱心に読んでいた漫画をテーブルに叩きつけ、勢い良く立ち上がった赤也。


「えっ、うん」
「…………マジすか!!」


いや、うん、マジだよ。そんな大きな声で繰り返さなくても、マジだよ。


「赤也テンション爆上げじゃん」
「いや爆上げっしょコレは!え、ひなこ先輩の友達って誰さん?俺知ってます?」
「うーんどうだろう。今年初めて同じクラスになって仲良くなった子だからなあ」
「えー丸井先輩は?」
「俺もその同じクラスの女子に関しては、ひなこといる女子っていう認識くらいしかねーわ」
「だよねえ」
「ん」
「……」

立海大附属中学校はとても大きく生徒数もかなり多いから、同じ学年でもほとんど知らない人ばかりなのだ。私なんて、友達の友達くらいまでしか知らないし。

「…あれ?」
「うん?」
「いやほら、一昨日くらいにひなこ先輩とすれ違った時って友達といませんでした?」
「……あー!」

そう言えば丁度良くそんなことがあった。移動教室の私達と、購買帰りの赤也とですれ違ったことが。

「そうそう!あの時いた髪長い子なんだけど覚えてる?」
「髪長……えっ、ちょっと待って下さい」
「ああ、はい。待ちますよ」
「……」
「……」

額に手を当てて一生懸命記憶を辿る赤也と、そんな赤也を見る私とブン太。赤也はいつになくめちゃくちゃ悩んでいる。むしろこんなに悩んでる顔を見たのも初めてかもしれな……お?思い出したのかな?
突然パッと顔を上げた赤也の目は、驚く程にキラキラと輝いていた。


「えっ、もしかして、あの、めちゃくちゃおっぱい大きい人ですか!?」



「……え?」「ぶふっ」


……なんて?


「あれ、違いました?」
「や、え、それはたぶん…違わないけど」
「やっぱり!…いやー、この間ひなこ先輩と会った時にめちゃくちゃ印象残ってたんすよね!」
「へえ、可愛かった?」
「あーいや、残念ながら顔は覚えてねーっす」
「……ぶはっ!」
「ち、ちょっと!どういうことよそれ!」
「どうもこうも、『おっぱいでけー!』って思ったら通り過ぎてました」


赤也の発言に対して本日何度目かの吹き出しをしたブン太は、ついにお腹を抱えて笑い始める。


「俺的にはすっげーウケるけど、赤也お前それ割と最低な発言だぞ」
「そ、そうだよね!?」
「おお」
「えっ、でもおっぱい見ません?」
「それは見る」
「おいこら」
「ほら!」
「でも普通は顔も見るわ」
「いっやいやそれは丸井先輩がその人見てねーからっすよ!マジで顔見るの忘れましたもん」
「……ぶはっはっは!」


「うわー、マジでしくった」。ゲラゲラと笑い続けるブン太をスルーして、今度は本気で悩み始めた赤也。


「えーひなこ先輩なんか写真とか無…」
「あってもおっぱいしか見てないようなヤツに見せる訳ないでしょうが!」
「ええっ」
「当たり前でしょ!私の友達なんだと思ってんのよ!」
「ええー!そう言わずに!これからはちゃんと、ひなこ先輩の友達全員に挨拶しますからあ!」


……いや、それは友達に対する態度のベクトルが圧倒的にズレてる。


「ダメです!」
「そんなあ、一生のお願いですってー!」
「それは一昨日もう聞きましたー」
「えーじゃあ丸井先輩!丸井先輩の一生のお願いで見せてもらって下さい!その感想でいいんで!丸井先輩も見たいでしょ!」
「……やだよ、なんで俺の一生のお願いを赤也のために使わなきゃなんねーんだよ」
「げえぇ…」
「……」

た、確かにほんとそれはそうだけど。ヒーヒー笑いながらも突然の正論を放ったブン太に、私も驚いた。


「……じゃあじゃあ!」


そしてまだめげないのか、この子は。


「もう本当にこれを、切原赤也一生に一度の、一生のお願いにします!」

「……は?」
「もう一生のお願いはこれで終わります…」
「……?」
「お前じゃあ今までの一生のお願いはなんだったんだよ」

『今までの一生のお願い』。ブン太が発した言葉は中々に不思議な言葉だったけど、まあきっと、ブン太も何度も赤也の一生のお願いを聞いてきたということなんだろう。

「今までのは今日の一生のお願いです」
「…どういうことよ」
「あーもう!だから、一生に一度の一生のお願いはここで使うってことです!」

はあぁとため息を漏らす赤也だけど、言ってることがさっぱりわからない。仕方が無い、みたいな顔してるけど、こちとら何度一生のお願いを聞いてきたのだと思う!

……とは思うけど、なんかもうもの凄い熱量だし、一生のお願いはこれで最後にするって言ってるし。写真くらいなら見せてもいいか。

「……まあ、わかった。いいよ」
「えっ!」
「マジかよ」
「でも、今は携帯持ってないから部活終わってからでいい?」
「えー!」
「だってしょうがないじゃん、取りに行くの面倒くさいし」
「ええーだって俺、今一生のお願い使ってんすよ!一生のお願い!」



「……なんか俺一生のお願いって言われ過ぎてよくわかんなくなってきた」
「うん、私も」









「取りに行くのめんどくせーのもわかるけど、このままなのもめんどくせーから携帯取ってくれば?」。『一生のお願いのお願い』を連呼する赤也を見かねたブン太にそう言われて、それもそうだと結局携帯を取ってくることにした。


「お!待ってました!」


携帯を持って現れた私に、赤也は目を輝かせて寄ってきた。ブン太もついでに。
つい先日遊んだ時に撮った写真がすぐに出てきたから、私はとりあえずそれを見せることに。

「ほら、この子」



「……」
「おー、普通にカワイイじゃん」
「でしょ!えっへん!」
「……」
「なんでひなこが威張るんだよ」
「え、だって友達褒められると嬉しいじゃん」
「……」
「ああまあ、そういうヤツな」
「そうそ」

「ひなこ先輩!」
「!!」 「!!」


私とブン太が話している間、黙って写真を見ていた赤也が突然、とても大きな声で私の名前を呼んだ。


「ど、どう」
「何処すか!?」
「……ええ?」


そう叫んだ赤也の目が、キラキラしていた目から、、ギラついたように変わった気が……。


「だから、この女神は今何処にいるんすかって聞いてるんです!」


「……」「……」


「ぶはっ!女神ってやべえ!」
「ちょっ、赤也?」
「ひなこ先輩!」
「え、や、ええっ?何処かって…」

私に詰め寄ってくる赤也のあまりの豹変ぶりに若干引きながら、私はブン太に助けを求める。……ってやっぱりめちゃくちゃ笑ってるし!

「ど、何処か言ったらどうするつもりなの?」
「どうするって…まあまずは挨拶でしょ、んで自己紹介して、とりあえず俺も好きだってことを伝えて」
「ぶはっ!」
「えっちょちょ、ちょっと待って!」
「なんすか!」

自分で聞いたくせに、思わず赤也が話してるのを遮ってしまった。しかし赤也、何故だか焦っている。

「え、す、好きなの?」
「好きっすよ」
「名前も知らないのに?」
「んもー、そんなのは後でいーじゃないすか!」
「……ちなみに何処が好きなの?」
「え、おっぱいデカくて可愛いところ」

「……」
「……」
「なんで赤也ってこんなアホなの?」
「俺に言うならまだしも、ひなこに言うのはさすがに俺も引くわ」
「だ、だって好きなところ聞いたのひなこ先輩じゃないすか!」
「……」

いや、とはいえまさかそこで『おっぱいデカくて可愛いところ』なんて言われると思わなくない?…そうだと思っても言わなくない?

「あーもう!急がないとー!」
「何をだよ」
「こんな可愛くておっぱいデカい人っすよ!一刻も早く声掛けないと、何処ぞの馬の骨とも知らねーヤツに取られたらと思うと!」



「……や、言っとくけど私からしたらそれ赤也のことだからね?」
「間違いねえわ」
「えええ?」


(気が向いたら、VSSにて続き書くかもしれません(笑))


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