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4時間目の授業が終わり、待ちに待ったお昼休み!勢い良く立ち上がった私はお弁当をカバンから取り出し、廊下に置いていた少し大きい保冷バッグへと向かう。保冷バッグを開ければ、ひんやりとした空気が出てきて。うんうん、ちゃんと冷たいですねえ。急いで再びチャックを締め、お弁当を上に乗せて立ち上がった。

ブン太!早く早く、早く来おーい!


「あ!」


右手はポケットに、左手にはお弁当のバックをぶら下げたブン太が歩いてくるのが見えて私は声を上げる。私と目が合ったブン太は右手を上げて。

「よ」
「ブン太!誕生日おめでとう!」

保冷バッグを優しく持ち上げて、本日5度目であるおめでとうをブン太へ伝えた。言われたブン太はというと、ふんと鼻を鳴らしてガムを膨らませる。

「それ、今日5回目なんだけど」
「ええーむしろまだ5回目って感じだけど」
「まだなの?一体何回言うつもりだよ」
「ふふん、数えてご覧なさい」

日付が変わってから、電話を切る前、朝起きてからのメッセージ、朝会ってから…そして、今。既に5回おめでとうを伝えても、まだまだ伝え足りないんだもん。

ブン太とお昼ご飯を食べる時はいつも屋上。でも今日は、ブン太が仁王くんに聞いた情報により、人が来ないらしい外の非常階段に行くことになっていた。


「でっけー保冷バッグ」


歩き始めた私の手元を見て、ぽつりとブン太が呟いた。

「重くねーの?」
「重いけど…まあでも、今日はブン太の誕生日だからね!」

ブン太に美味しく食べてもらえると思えば、重いくらいはへっちゃらだ。むしろ、昨日までの上手く出来るのかという緊張に比べればどうってことは無い。春休み中の練習の甲斐あって、恐らく!きっと!上手く出来たし!


「ふーん、サンキュ」


そう言ってブン太が左手から右手にお弁当を持ち替えたかと思えば、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。いきなりで驚いたけど、目を向ければ嬉しそうなブン太と目が合って。


「ううん、どういたしまして!」





そして、辿り着いた非常階段。ドアの向こうにあるのは見たことがあったけど、実際にドアを開けたのは初めてだった。今日は気温もあまり高くなく、ドアをあけると春の匂いがした。

「…俺、初めて来たわ」
「私も。てかそもそも、鍵を開けて外に出ようっていう考えが無かった」
「だよな、ここに来てすることねーし」
「そうそう」

そんなことを2人で話しながら、踊り場に腰を下ろす。非常階段ということで外にあるため、上の屋上からは色んな人の声が聞こえてきていた。
保冷バッグは横に起き、ブン太と向かい合ってお弁当を広げる。見るとブン太のお弁当は、どどーん!と大きなカツが乗った、カツ重だった。

「わあ、ブン太カツ重だ!」
「これが15歳の風格ってやつよ」
「……なるほど。全然意味わかんないけど、とりあえずブン太15歳おめでとうってことでいい?」
「いい」
「ではでは、15歳のブン太さん!お昼ご飯の挨拶をどうぞ」

手をグーにしてマイク代わりに、ブン太へと向ける。

「…いただきます」
「いただきまーす!そしてブン太!誕生日おめでとう!」
「ふんふー」

既にカツを口にいれ口をもぐもぐさせてるブン太が話した言葉は、たぶん『サンキュー』。

「デザートの分、ちゃんとお腹残しておいてよね?」
「余裕ヨユー」
「ならば良い!…あ、そういえば今日体育でジャッカルくんがねー」
「おー」



お昼ご飯を食べながら、その日あったことをブン太と話すのが私の楽しみのひとつ。今日は同じクラスであるジャッカルくんの、体力テストのシャトルランが恐ろしかったことを話すことに。



「…それでね、授業終わっても1人で走ってたの!」
「ぶっは!それやばすぎんだろい」
「次の授業には間に合わなくて、始まってから来てたよ」
「マジかよ、見に行きゃ良かったわ」
「ねー、次の授業国語だったけど、遅れてきたのにみんな拍手だったもん」

とはいえ、実際のところ、毎日一緒に食べる訳ではない。でも部活が忙しいブン太とは学校終わりに一緒に帰ったりすることもほとんど無いし、休みの日だって練習がある。だからこうして一緒に食べると、ついつい食べることよりも話すことを優先してしまう。…だけど、それって仕方がないよね?だってブン太と話すの楽しいんだもん!



「ごっそさん!」
「ええっ、早!」

…と、思っていたものの。ご馳走様という声の通り、あっという間にブン太はご飯を食べ終えてしまった。確かに、今日のブン太は話すよりも食べるのに集中していた気がする。生返事までは行かなくても、いつもはもっと盛り上がると思うんだけど。うむう…。

そんな私のもやもやなんてお構い無しに、お茶だけを残してテキパキとお弁当を片付けるブン太。


「当たり前だろい、今日のメインはあいつだからな」


そうにやりと笑ってブン太が指差したのは、保冷バッグ。

「えっ」
「朝からずーっと楽しみにしてたんだかんな」
「そ、そうなの?」
「…なあ、もう開けていい?」
「や、それはだめ!私も急いで食べるからちょっと待って!」
「…はーい」
「……」

…なんかブン太、素直。てかブン太のいい返事って珍しくない?卵焼きを食べながら、お茶を片手に携帯を弄るブン太を眺める。メイン、って言ってたよね。朝から、しかもカツ重をすぐ食べ終わっちゃうくらい、楽しみにしてくれてるってこと?えええ、それ、嬉しいかも!
ブン太の顔を見て思わずにやけそうになるのを我慢し、私は急いでお弁当を食べる。っても、今の時点でもいつもよりは絶対早いと思うけど!

それからすぐに食べ終え、お弁当を片付けた私。横にある保冷バッグを目の前に持ってくる。


「お待たせしましたー」


保冷バッグを開けて、ケーキ用の四角い箱を取り出す。

「ジャジャジャーン!」
「おー!きたきた!」
「わーい!」

ブン太がパチパチと手を叩いてくれて、私も嬉しくなってきちゃう。

「じゃあ開けますよー」
「イエース!」
「ブン太!誕生日!おめでとー!」


本日7度目の決まり文句と共に、ケーキ登場!


「おお!ガトーショコラじゃん!」
「そうだよ、どうどう?」
「めっちゃくちゃ美味そう!」
「本当に?えへへー、やったね!」

ブン太、喜んでくれてる!大きく開かれた目に、ケーキに近づいている鼻先。可愛いなあ、もう。ほんと、大好きだなあ。ケーキを見つめるブン太に、そう思わずにはいられない。

フォークを取り出して…あ、渡すついでに隣りに移動しちゃおっと!


「はい、フォーク」


受け取ったブン太は、隣りに座った私の方をチラリと見て。

「ひなこまさか、俺の誕生日ケーキ狙ってんじゃねえよな」
「なっ、違うもん!ブン太の隣りに来たかっただけだもん」
「……」
「……」
「…ま、じゃあいっただっきまーす」
「うん、召し上がれー!」

どうかな、美味しいかな?期待してくれてたし、ホールケーキのままで味見は出来なかったから少し緊張する。でも練習の時もちゃんと美味しかったし!
こちらも大きな一口で、ぱくりと口に入れたブン太の横顔を見つめる。

「……うん、やっぱチョコレートって正義だわ」
「え、それって美味しい?美味しいってこと?」

ブン太の言葉に私が詰め寄ると、早くも二口目を食べながら頷き親指を上げるブン太。飲み込んでから、ペロッと唇を舐めて。


「すっげー美味い」


そう言って目を細めたブン太は、私のおでこに優しくキスをして。


「ひなこ、ありがとな」


今度は地面に手をついて耳元でブン太が囁いてから、唇にチュウ。柔らかいブン太の唇に包まれて、つい頬が赤くなる。


「カワイイヤツ」


唇が離れるのと一緒に目を開けると、満足そうなブン太と目が合った。…一気に、2回もちゅーされた!

「……うし!じゃあ、来年はチーズケーキで決定な!」
「え、ら、来年?」
「うん」

顔が真っ赤であろう私と対称的に恐ろしくけろっとしたブン太は、ケーキに目を移して三口目。

「うんま」
「ら、来年も、ケーキ食べたいってこと?」
「んー、そう言われると、ひなこさえ良ければ本当は毎日食いてーけどな」
「…いやいやいや!それは無理!」
「だろい?」
「うん」
「だから、年に一度くらいは楽しみってことで」

そう話しながら、ケーキを一口分掬ったブン太。そしてそのまま私にフォークを向けて。

「…いいの?」
「一口だけな」
「……ありがとう!」

差し出されたチョコレートケーキを、そのまま口に入れる。でもブン太から貰ったケーキは、自分で言うのも変だけど、ものすごく美味しかった。ブン太がくれたからかなあ、なんて思っちゃうくらい。
今年の1年は、15歳になった大好きなブン太と、沢山の嬉しいと沢山の美味しいを一緒に楽しんでいけますように!ブン太!ハッピーバースデー!


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