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(高校生設定)
どうせ付き合うならマネージャーがいい。それが中学校生活を3年間過ごした俺が出した結論だった。
中学のときはマネージャーなんていなかったし、高等部のテニス部のマネージャーはレベルが高いらしい。高等部との練習でチラチラ見てみたけど、可愛い人しかいなかった。それを見た俺は、絶対すぐに彼女を作ってやるぜ!そう心に誓った。高校1年生の春だった。
「マネジこっちもドリンク!」
「はーい!」
「次こっちなー」
「はいはいお疲れ様ですー!」
俺の目の前で行ったり来たりを繰り返すひなこ。今日はいつもより大変なはずなのに、どこか楽しそうに仕事をしていた。
「ひなこー」
「んー?」
「今暇ー?」
「…暇じゃないでしょどう見ても」
「俺暇なんだけど!」
「……仁王、ブン太のお願いね」
「えー仁王かよ」
「そりゃこっちのセリフじゃ」
嫌そうに仁王と見合っていると、ひなこはまたどこかで名前を呼ばれたのか声のした方に走っていった。
「あーヒマ!」
「…鞠」
「……リス」
「するめ」
「めんぼう」
「馬」
「マイケル」
「ジャクソン…あ」
仁王を見ると、しまったと言う顔をしている。まさかの敗北だったな仁王!俺もまさかの勝利だったけど!俺はたかたがしりとり勝ったくらいなのに異常に嬉しくて、ひなこがいる方を見た。タオルを渡しながらめちゃくちゃ笑顔だった。可愛いなー。
幸村くんの休憩終了の声が聞こえた。そういえばもはや最後はしりとりじゃなかったのは気にしないことにして、仁王付き合ってくれてありがとな。勝ち方はどうで俺の勝ちだったぜ!ハッハッハ!
俺の休憩はこうして過ぎてった。
「じゃあお先っす!」
赤也がそう言って部室から出て行った。残ったのは俺1人。
「早く来いよなー」
今日はいつもよりもマネ業が忙しかったからか、なかなか片付けが終わらないらしい。いつもの時間を、20分も過ぎていた。
高校、そしてテニス部に入ってから1週間も経つと、マネージャーが入部してきた。ひなこを見たのはそれが最初。一目惚れではなかった。ぶっちゃけ一緒に入った人でもっと可愛い子はいたし、おまけにその子は学年トップクラスに可愛い子だった。先輩も同い年のやつも、ソイツのことを可愛いと言っていたのを覚えている。
でも、俺は何故かひなこに惹かれた。…これって運命じゃね?
「ブン太いる…?」
「…いる」
「え、ウソ!もう帰ったかと思ってた!」
「帰るかっつーの!」
いきなりドアが開いたと思ったら自信なさげな声。驚き方的に、本当に待ってないと思ってた、のか?
「今日の練習キツかったからみんなと帰ったと思って…ごめん!」
「…お前1人で帰すわけねーだろい?」
「だってまだ明るいし大丈夫だもん」
「だから、その油断が危ないんだっての」
味のなくなったガムを膨らます。眉間にシワが寄ってるのがわかった。
「…ブン太シワ寄ってる」
「知ってる」
「別に怒ることじゃないじゃん!」
「怒ってねーし」
「じゃあ何?」
「心配」
えっ、と呟いてひなこは戸惑った顔をした。
お前は自分が思ってるより可愛いんだって!ナンパされたら断れなさそうな感じ出してるし!…心配すんに決まってんだろ!…なんて考えるも、そんなことは言えない。てか言わなくてもわかれよ!…無理か。
「わかっただろ?」
「う、ん」
恥ずかしいのか顔が少し赤い。しかもいつもは俺の目を見ているのに、目線を下にずらして困ったような顔。あー、それヤバい確実ヤバいって。
「な、ちょっと来て」
「ん?」
何も知らないひなこが歩いてくる。座ったまま手の届くところに来たのを確認してから軽く腕を引っ張った。突然腕を引かれてバランスを崩し倒れてきたひなこは、そのまま俺の膝に乗っかった。
「び、っくりした!いきなりどうしたの?」
「んー」
「…あ!ちょ、離して!」
「何で?」
「あたし今汗臭いもん、だから!」
「別にそんなことねーけど」
「あるから!ないわけない!」
「嫌だって言ったら?」
「困る!」
「何だそれ」
俺は少しだけ笑って、ひなこの肩に顎を乗せた。ひゃあ!と叫んでからこっちを振り向いたひなこに、すかさずキスをする。何回も離れてはまたキスをするのを繰り返す。やべ、これはマズい。理性飛ぶ。
「誰かいますかー…え?」
想定外に開いた部室のドア。そこにいたのは1年生のマネの鈴木だった。見事に見られた。ひなこはショックで完全に時が止まってる。
「あ!あああのね違」
「しっ失礼しました!…キャー!」
「……」「……」
「…見られてた?」
「完璧にな」
「そんなアッサリ認めないでよ!え!どうしよう恥ずかしい!」
今から行って弁解したい!
そう言って今にも本当に走り出しそうなひなこを止めた。だって弁解することねーし。付き合ってんのも知ってんじゃん。そう言ったらひなこも諦めたのか、もう絶対止めてよね!なんて言って怒ってた。
「でも鈴木に助けられたよな」
「何が?」
「俺理性飛ぶ寸前だったからさ」
「……」